No.5041 (2020年12月05日発行) P.62
久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)
登録日: 2020-11-19
最終更新日: 2020-11-19
医師の長時間労働、過労死基準を超える時間外労働が問題となっている。今年のコロナパンデミックでも医師不足が指摘された。この原因は、海外とは異なり医療制度の根幹となる医師業務が、医師法17条により医師の医業独占として規定されているからである。確かに、保助看法37条に医師の指示および臨時応急の手当の場合には、医師の監督下で看護師による注射などの医行為が許されている。しかし、我が国の看護師の医行為の範囲は極めて狭く、実施可能な医行為は欧米諸国だけではなく、アジア・アフリカ・南米と比較しても厳しく制限され、国際的にみれば最下位レベルである。厚生労働省で定める看護師に不可欠な研修行為の大半はベッドメイキングや患者介助等が優先されており、海外では看護師以外の医療補助員が実施する、医行為には該当しない業務である。血管確保、動脈穿刺、気道確保など生命危機への治療行為は我が国のみで看護師には禁止されているため、多くの医行為を我が国では医師が実施せざるをえない。このため、医師の労働は増加し、加重となっている。
日本の国際的医療レベルは高いにも関わらず、人口当たりの医師数が極端に少ないことから、政府は医学部の定員を増やして医師の増員を画策し、2025年までに人口当たりの医師数を経済協力開発機構(OECD)の平均にまで引き上げようとしている。しかし、前述した医行為の独占が継続するなら必要なマンパワーは不足する。諸外国では看護師を基盤として医師とほぼ同等の医行為が実施可能なNP(nurse practitioner)あるいは医師を補助するPA(physician assistant)が医療領域毎に認められ、2〜3年間の短期間の研修で育成される。米国では新生児医療、麻酔行為など医師とほぼ同数の医行為が実施可能な領域もあり、NP・PAは医師あるいは看護師と異なり、一般人がなりたい職業の上位に位置する。このNP・PAの導入は医師数の倍増に匹敵することを意味する。
私はNPあるいはPAの導入を20年前から周産期領域だけでなく他領域の医療関係者と画策したが、日本医師会や日本看護系大学協議会などの強烈な反発で実現できなかった。2015年から研修がスタートした、医師とワークシェアする「特定看護師」は海外のNP・PAとは全く異なる骨抜き制度であり、我が国の医師・看護師不足による医療崩壊の救世主とはならない。そろそろ国際レベルのNP・PAの導入を我が国でも真剣に考えなければならない。
久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療]