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【識者の眼】「COVID-19と関連して、日本が原発事故の頃より良くなっていると感じたこと」堀 有伸

No.5043 (2020年12月19日発行) P.53

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-12-04

最終更新日: 2020-12-04

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はまるで大きな災害のように社会全体に長期にわたって影響を与えています。東日本大震災と原発事故にかかわってきた人間は、前の大災害への対応について「そろそろ一つのフェーズが終わる」と感じていたタイミングで、別の大災害が始まったような印象を持っています。どちらも先の見えないなかで、「放射線」や「感染症」のような専門的な知識を、生活に密着したレベルで実践的に身につけることが求められます。政治や経済と相互に密接な影響を与え合いながら、科学的な見解についての議論が行われていることも共通点です。

もちろん課題も多くあるのですが、議論の行われ方が「原発事故後」よりも良くなっているのではないか、と感じています。「政府に賛成する/反対する」という大雑把な政治的かつ示威的な水準に議論が終始することが減り、何らかの命題が支持される前提条件が議論されたり、定量的な議論が尊重されたりといったように、日本社会の中で行われる議論の精度が以前よりも上がっているように思われるのです。

原発事故後の数年間は、本当に困難な時が続きました。福島県内からの発信が、「安全よりのもの=原発推進の意図によるもの」か、「危険を告発する水準のもの=原発反対の意図によるもの」の両極端のどちらかに解釈されてしまい、現地からより細かい議論を発信しても無視され続けるという印象を持っていました。たとえば、「2011年の事故による放射線の低線量被ばくによる直接的な健康影響は幸いなことに軽微である。しかし避難生活を筆頭に社会経済状況が激変したことによる間接的な健康影響は相当に大きい」といった見解を私たちは発信してきましたが、そういったことは無視され、「ひたすら安全を強調するもの」か「ひたすら危険を強調するもの」の意見ばかりが消費されているのを、空しい気持ちで眺めたことがありました。

厳しい試練が続きます。しかしそれを通じて、私たちの中には賢く強くなっている部分もあることを信じたいと思います。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[科学的見解を巡る議論]

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