No.5050 (2021年02月06日発行) P.68
尾﨑治夫 (公益社団法人東京都医師会会長)
登録日: 2021-01-26
最終更新日: 2021-01-26
本来、新型コロナウイルス感染症を短期間で抑えられるだけ抑えて、感染者を速やかに減らしていくことが飲食や観光の利用者である国民が、感染の恐れなく安全に、飲食や観光ができる環境をつくることとなり、経済再生の近道になるはずである。
しかしながら、そのことを国のリーダーがしっかりとしたビジョンを持って強く主張しないために、今や世の中が分断され、レフリー不在の格闘技の如く、飲食・観光業界を代弁する人たちと医療界の闘いの様相がもたらされている。
医師会もその活動や言動がマスコミを通じて発信されることが多くなり、それ自体は喜ばしいことなのだが、中には医師会が医療制度や医療提供体制を主体的に動かせる組織だと、間違って過大評価される方々も増えている。「第一波を経験してから半年以上経つのに、医療者は何もやってこなかったくせに、飲食業界だけに罪を着せるやり方は許せない」といった論調が目立っている。
国民皆保険制度の中で、保険医としての役割を果たしながら、国が描く医療提供体制のもと、数々の規制を受けながら、その中で新型コロナ対応に精一杯の努力をしてきたのが医師会である。もちろん新たに必要な変革に対し、保守的でなかなか変えようとしてこなかった面があるのも事実ではあるが。
新型コロナが出現する直前まで、2025年以降の超高齢社会に備えた医療提供体制の準備づくりに邁進していた国と医療関係者。感染症パンデミックという有事の事態の備えを怠ってきた国。その様な中で、全国の医療者は新型コロナと向き合って闘ってきたのではないか。もちろん国民の頑張りが一番だったのかもしれないが。
東京では、1日2000人を超える陽性者が出るのも驚きではなくなりつつある今、第一波とは比べものにならない医療崩壊が進んでいく危険性をはらんでいる。国民の間の対立を煽る人々を放置することなく、国民一体となって新型コロナと闘う体制になってもらうことを真摯に呼びかけることこそ、政府の役割であろう。
京都大学の西浦博教授によれば、前回の緊急事態宣言時並みの厳しい対策をとれば、2月下旬には東京でさえ、1日100人以下の感染に抑え込むことができるという。しっかりとした休業補償のもと、「2月いっぱいまで皆で頑張ろう! そうすれば、また世界が開ける」そういう強いメッセージを国から発信してもらいたいものだ。
尾﨑治夫(公益社団法人東京都医師会会長)[新型コロナウイルス感染症]