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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る、新型コロナワクチンの現実世界での効果」鈴木貞夫

No.5061 (2021年04月24日発行) P.56

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-04-06

最終更新日: 2021-04-06

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日本で新型コロナワクチン接種が進まない中、先行数カ国では既に30%以上の国民への接種が完了している。ここでは公開データ1)による接種先行国の現実世界でのワクチンの効果を疫学的に記述する。「現在」とあるのは、2021年4月1日である。

接種が最も進んでいる国はイスラエルで、現在の平均接種回数は1.16回である(1回接種60.7%、2回接種55.5%)。ここでは、平均接種回数が0.2を超えた頃から1.3以上あった実効再生産数(以下、R0)が下がり始め、0.4で新規感染者が減り始めた。接種開始から約1カ月という目覚ましい変化である。その後も感染者減少は継続し、最大で約1000人だった新規感染者数(人口100万人あたり/日)は、現在50を切っている。死亡者も接種開始から2カ月、平均接種回数0.5くらいで減少に転じ、現在では最大値の6分の1以下まで減少した。接種率、ワクチン効果とも世界のトップにある。

イスラエル以外でも、アラブ首長国連邦(以下、UAE)、英国、米国の3カ国は、接種率の上昇とともに順調に感染者数を減らしてきたが、ある程度進んだ時点で、感染者の減少が頭うち傾向にある。UAEは、R0が0.9を切ってから増加に転じ、新規感染者数がなかなか200を切れない(接種開始後の最大値は380)。英米も接種開始直後はイスラエル以上の効果を示し、英国の新規感染者数は880から80まで激減した。西欧主要国中最小となったが、その先の減少は緩徐である。米国の新規感染者数は750から160まで下がったあと微増に転じ、現在200近辺である。

平均接種回数が0.3を超えた国は、他にチリ、バーレーン、セルビアがある。R0はセルビアでは下がり始めたが、バーレーンでは上下が一定せず、チリに至っては増加〜横ばいが続いている。R0が1未満の国はなく、新規感染者数は3カ国すべてで増加している。これには複合的な原因があると思うが、最も重要なのは「ワクチンが効いているかどうか」である。これは、感染者の接種歴を聞くだけで解析すれば分かることであり、この情報をとっていないということは考えられないが、公開情報からはつかめていない。変異株に対するワクチンの有効性だけでなく、現在使っているワクチンの有効性も重要だ。しかし、そういう疫学研究の報道は少ない。

日本でのワクチン接種の進捗と効果の動向をきちんと見守りたい。

【文献】

1)https://ourworldindata.org/covid-vaccinations

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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