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【識者の眼】「米国医療から日本医療の未来を見る」竹村洋典

No.5073 (2021年07月17日発行) P.60

竹村洋典 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)

登録日: 2021-07-06

最終更新日: 2021-07-06

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米国では今世紀に入って、総合診療医(米国では家庭医)になろうとする若者が減少しつつあるのを回復するために、Patient-Centered Medical Home(PCMH)の概念を総合診療に取り入れた。これを理解すると、日本の医療の未来が見えてくるかもしれない。

先進国では経済の発展に伴い、疾病構造が感染症主体から生活習慣病主体に転換した。患者が生活習慣を改善するかしないかは、患者にゆだねられる。医師から患者への父権的な診療形態ではうまくいかない。患者自らの考え、期待、心理社会経済的な背景を勘案する必要がある。そして患者は治療を受けるだけではなく、できる限り治療に参加できる環境が必須である。そしてここには治療を超えた「癒し」が目的となる。

PCMHでは、それを医師一人が行うのではなく、様々な職種、例えば看護師、栄養士、OT/PT、薬剤師、精神保健の専門家、および他の専門的なプロバイダが連携するチーム医療が要求される。医師の時間や労力が有限であり、医師の多くのタスクシフトが前提である。日本においては介護保険が進んでおり、介護職種との連携も積極的にできると思われる。

米国でPCMHが実現できた重要な要素はICTの発展である。電子カルテの利用はもちろん、ポータルサイトに情報を集約して共有できるシステムを構築し、それに医師を含めた多職種医療従事者がアクセスできる、また患者もその情報にアクセスできる、さらには、そのシステムを介して患者と同様の疾患を持つ患者団体にも接することができる場合もある。

また、診療報酬制度が包括払い、人頭払いを採用する先進国も多く、このような国で医療従事者は医療機関を訪れない健康な住民にも配慮する。そのような支払い制度下では、年間に支払われる患者1人当たり診療報酬が定額なので、電話、電子メール、テキスト情報配信、ソーシャルメディアなど、他のコミュニケーションの方法の利用に対するインセンティブが高まることになる。そして登録された患者をケアする場合、健康そうに見える住民を対象とするので、医師を含めた医療従事者が、保健事業にも積極的に参画することとなる。

PCMHによって、より質の高い医療をより低コストで実現することができるようになり、米国の医療費が削減できるとのエビデンスが出てきた。PCMHを日本の医療環境にあった日本版PCMHとすれば、日本の医療の未来がさらに明るくなるかもしれない。

【参考文献】

▶ 竹村洋典(監訳):レイケル総合診療テキスト抜粋版. エルゼビア・ジャパン, 2021.

竹村洋典(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)[総合診療]

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