No.5079 (2021年08月28日発行) P.63
土屋淳郎 (医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)
登録日: 2021-08-06
最終更新日: 2021-08-06
独居の認知症患者の情報共有に多職種連携システムを用いて、自宅で看取った経験がある。認知症でもある程度は自身の意思を伝えることができたのでその意思を尊重し、在宅医療チームが多職種連携システムの患者タイムラインで円滑に情報共有を行ったことが自宅看取りを可能にした事例だったが、このケースで興味深かったもう一つの点が、在宅医療チームのタイムラインに病院医師及び看護師が参加した事だった。治療困難な褥瘡に対し在宅皮膚科医が手術による治療が必要と判断。入院前から病院看護師がタイムラインに参加して入院調整を行い、入院中は病院医師・看護師と在宅医療チームが随時情報共有を行い、退院調整も円滑に行うことができた。退院後も病院医師・看護師が在宅医療チームにアドバイスをしてくれたことが退院後のケアをより良いものにし、病院医師・看護師にとっても退院後の療養状況が把握でき、自宅での看取りにまで関われて良かったとのことだった。
数年前は、病院医師・看護師が多職種連携システムを利用して在宅医療チームと情報共有を行うことは珍しかったが、最近ではこのように地域とつながるケースが多くなってきた。
日本大学医学部附属板橋病院では、心不全パンデミックに向けての心不全地域連携における大学病院の役割の一つとして多職種連携システムの利用を開始し、「地域との連携を効率よく、強くするためのツールの一つとして活用したい」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/79/4/79_241/_pdf)としている。都立大塚病院では「在宅復帰支援システム『大塚医療ネットワーク』」として「地域で在宅医療介護を担当されている主治医・訪問看護・ケアマネジャーと、大塚病院の医師・看護師・MSWがICTを用いて患者情報を共有し(中略)在宅から病院、病院から在宅へスムーズに移行するための取組」(https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/ohtsuka/formd/renkei_zaitaku.html)を実施している。その他にも聖マリアンナ医科大学病院や大阪市立総合医療センターなど、大学病院や公立病院が多職種連携システムを利用して地域とつながる取り組みを行っている。
高度急性期病院は医療連携のピラミッドの頂点に位置するイメージがあるが、そこが在宅医療や介護といった地域の現場に降りてきて連携体制の強化が進めば、地域医療連携や医療介護連携が一体化して提供され、より質の高い地域包括ケアシステムが構築されるだろう。
土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[地域包括ケアシステム]