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【識者の眼】「意識障害にみえる昏迷にはECT」上田 諭

No.5088 (2021年10月30日発行) P.58

上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)

登録日: 2021-10-11

最終更新日: 2021-10-25

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身体疾患で治療中の人が、急に反応が悪くなり、動かなくなったら、まずは意識障害による意識レベル低下を疑う。しかし、そのような例の中に、意識障害ではない病態の「昏迷」がある。典型的には、双極性障害やうつ病などの精神疾患の増悪期に無言無動になる状態で、難治だ。精神疾患が寛解し安定しているようにみえて突然に生じることもある。

消化器疾患で入院した70歳代のある男性にはうつ病の既往があったが、抗うつ薬の内服で安定していた。身体治療は順調に進んだが、口数が少なくなり独語が目立ち、ある朝から無言無動状態になった。声かけに反応なく、閉眼して眼瞼をぴくつかせ、四肢は弛緩し、痛み刺激にも無反応であった。血液、頭部MRI、脳波の検査が行われたが、すべて異常所見はないことから意識障害は否定され、うつ病による昏迷と考えられた。

胃管からベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬を投与した数時間後だけ、30分ほど覚醒し通常の会話や運動が可能になるという不思議な現象が起きるが、それ以外の時間は話せず、動きもない。精神科が介入し、BZ系抗不安薬を日中にも投与したが改善はなく、唾液貯留が増したため中止された。精神科病棟に転床となり、麻酔下で行う電気けいれん療法(ECT)が準備された。

昏迷には、四肢が脱力する弛緩性と、全身の筋強剛が強く発汗の目立つ緊張病性の2種類がある。BZ系薬が昏迷を解くのに有効な場合があるが、この例のように一過性なことも多い。確実な効果が約束された治療は、ECTしかない。

精神科のない総合病院では、ECTのできる施設に転院が必要になる。「原因不明の意識障害」として未治療のままにされると、肺炎や尿路感染など合併症を起こし回復不能になる危険がある。緊張病性や高齢者ならなおさらだ。的確な診断と早期のECTが重要である。

上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[総合病院医療]

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