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【識者の眼】「在宅ケア提供者の安全を守ろう」小倉和也

No.5144 (2022年11月26日発行) P.57

小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)

登録日: 2022-11-07

最終更新日: 2022-11-07

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医療介護職の安全確保と労働環境の改善が大きな課題となっている。特に在宅の分野では最近、ケア提供者が患者や家族からの暴力・ハラスメントにあう大きな事件が続き、これまで表面化しなかった問題がたくさんあったことも改めて認識されている。

2019(平成31)年の調査1)では、訪問看護師が患者や家族から身体的・精神的・性的な暴力・ハラスメントを受けた割合はいずれも約50%に上っている。一方、管理者の回答では、これらに対応する体制があると答えた事業所は15.8%にとどまっており、実態に対策が追いつかない現状が見受けられる。

医療介護、特に在宅の分野ではこれまで、「患者に寄り添うこと」の重要性が強調されすぎたためか、患者や家族からの行きすぎた要求やハラスメントに対してまでも、自分達の未熟さのせいにしたり、提供者側の忍耐と努力で状況を改善することが美徳であるような風潮が培われてきた。しかしながら、一般的にハラスメントや暴力とされるものは当然、在宅医療や介護の場であれ容認されるべきでないことは明白であり、まずはこの認識を共有することが、状況を改善し互いの安全を守るための大前提と言えるだろう。

患者に寄り添うこと、安全で良質な医療を提供することと、医療介護職の安全確保と労働環境の改善は、決して相反するものではなく、むしろ同時に実現されなければ確立不可能であることを、医療介護職自身が理解することが最も大切である2)

我々NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク(地域共生全国ネット)では、このような認識を、経営者や管理者を含めた医療介護職および広く市民とも共有するための研修や啓発活動を検討している。支援する側、される側ともに支え合い、皆が安心・安全に生活できる地域共生社会の確立のため、共に理解を深めていきたいと考えている。

【文献】

1)平成29年度・平成30年度全国訪問看護事業協会研究事業:訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告書. (2019年3月)

   https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-2.pdf

2)厚生労働省:医療従事者の勤務環境の改善について─医療勤務環境改善の意義.

   https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/g_cycle.pdf

小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[安全確保と労働環境]

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