欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会(EC)は10月24日、医薬品不足に対処するための新戦略を採択した1)。
欧州では、これまでも医薬品安定供給のための様々な対策が講じられている。この冬に危機的な不足が予測される抗生物質については、既に7月24日に供給不足のための対策を発表している2)。加えて新たな戦略では、規制をさらに柔軟にすることで企業の製造能力を高めるとともに、使用期間の延長や在庫積み増し、代替品の承認のスピードアップ、EU域内で承認されていない医薬品の例外的な供給、ラベリングおよび包装要件の全面的または部分的な適用除外などが可能となる。ほかにも、欧州内で危機的な医薬品不足が生じた場合に互いに支援しあう「自主連帯メカニズム Voluntary Solidarity Mechanism」の設立にも取り組むとしている。
わが国では10月18日、鎮咳薬・去痰薬の供給不足に対して増産要請が行われたが、欧州の取り組みに比べると後手に回った対応と言わざるをえない。感染症関連医薬品については、この夏から既に不足が大問題となっており、今後さらに抗生物質等の不足拡大も予想される(一部製品では既に限定出荷となっている)。にもかかわらず厚生労働省の対応は、相変わらず鈍い。
一方、毎月公表される日本製薬団体連合会(日薬連)の医薬品供給状況に係る調査をみても、半年以上、供給不足の状況の改善はまったくみられていない。本欄で何度も指摘してきたように、本調査からも、医薬品供給不足の主因は特定企業の品質・製造トラブルにあり、それが同一成分を製造している他社の供給にも波及して、大規模な限定出荷となっていることが明らかである。
ところが、10月23日、後発医薬品最大手の1つ沢井製薬は、同社九州工場において承認書と異なる不適切試験が行われていたことを発表した。同社は、既に特別調査委員会による原因分析と再発防止策の提言を受け、再発防止策を発表しているが、品質・製造トラブルの改善どころか、今なお不祥事が隠されていたことに怒りを覚える。
医薬品不足の一刻も早い解決のために、第一に、また迅速に取り組むべきは企業の品質、製造の正常化であり、さらに欧州のように薬事規制の一時的な緩和や増産指示なども行うべきである。厚労省の対応の遅さが医薬品不足の長期化に拍車をかけている。
【文献】
1)European Commission:Commission steps up actions to address critical shortages of medicines and strengthen security of supply in the EU.(2023年10月24日)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_5190
2)European Commission:European Health Union;EU steps up action to prevent shortages of antibiotics for next winter.(2023年7月17日)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_3890
坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価][欧州委員会の医薬品供給不足対策]