株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「差別と見下し」武久洋三

No.5198 (2023年12月09日発行) P.59

武久洋三 (平成医療福祉グループ会長)

登録日: 2023-11-28

最終更新日: 2023-11-28

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人間が集まれば一部に差別や見下しが起こります。そこから残念なことに「いじめ」や、大きく飛躍すると戦争にも及びます。今まさにパレスチナ戦争についても、最初はハマスの攻撃に批判が起こりましたが、時が経つにつれて、イスラエルの姿勢に非難が集中しています。若人はパレスチナ問題の本質を知らずに育ってきたからテレビの特集など100年近い複雑な経過が報道されるにつれて、パレスチナの国であった場所にユダヤ人が入植し、どんどん侵食してゆき、増強してきた軍事力でパレスチナ人を凌駕してきた仕打ちを知ることになり、イスラエルはひどいことをしているという認識になっています。そこにはまさにイスラエルのパレスチナに対する差別と見下しが感じられ、まさに人種的差別、蔑みと、ネタニヤフ首相の顔を見ても、人を人とも思わないような見下しと憎悪の表情があらわです。

イスラエルを応援するアメリカも、あまりにひどい仕打ちに苦悩しています。もとはと言えば、ナチスがユダヤ民族を差別し見下して大量虐殺や国外への追い出しをしたことが原因です。要するに差別と見下しの輪廻なのですね。

医療に目を向けると、どうでしょう。病人は弱い立場の人です。治療する医師は強い立場です。特に今は患者のほとんどは高齢者になっています。強くて元気な若人は、ともすれば弱くて余生の少ない高齢者に優越感を持って差別し見下しの感情を抱いても不思議はないですね。

実は最近、残念なことが起こっているのです。今は、在宅専門のクリニックが増えています。寝たきりの高齢者が増えていることと、ビル開業などでお金のかからない独立ができるということらしいです。しかし、寝たきりの高齢者から訪問診療を拒否される医師が増えているのです。その理由は若い医師の患者に対する態度が問題らしいのです。残念ながら患者に寄り添えず、上から目線で差別的な言動が知らず知らずのうちに出ているようです。本当に残念です。

若いうちは弱い患者を何気なく「80年以上も生きたのだから、もう十分じゃないか!」と思っているのかもしれません。医師は治療の前にまず患者のことを知るために話をして、病気の経過だけでなく、人となりや普段の生活状況を知ることから始めないといけません。こうしてまずは話をして仲良くならないと、治療も始まらないのです。機械的に治療しても治る病気も治らないし、患者から信用してもらえないのは当たり前です。医師は経験が長くなると、次第に成長してくる人が多いですが、年長者に対する尊敬と思いやりがない医師には誰もかかりたくないでしょうね。

残念ながら、医師であるというプライドと優先感と弱い者に対する差別と見下しが直らない医師は、臨床の場からは退出すべきですね

武久洋三(平成医療福祉グループ会長)[パレスチナ戦争][患者への態度]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top