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【識者の眼】「ポリオワクチンとポリオ根絶活動」岡部信彦

岡部信彦 (川崎市立多摩病院小児科)

登録日: 2025-08-04

最終更新日: 2025-07-29

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急性灰白髄炎(以下、ポリオ)は、子どもたちに生涯にわたる下肢の麻痺を残し、時に呼吸筋の麻痺などから死の原因となる流行性疾患であり、1960年には国内で5000人以上の麻痺患者が報告されている。しかし、経口生ポリオワクチン(oral polio vaccine:OPV)の緊急輸入後、流行は急速に終息し、1981年以降国内では発症報告はなく、国内から消え去った病気となっている。

OPVは、そのワクチンの性格上、個別接種ではなく主に集団接種で実施され、保護者は保健所などに子どもを2回連れて行き、OPV接種を受けていた。OPVの効果は劇的だが、一方で、生ワクチンであるが故の副反応、ワクチン関連麻痺(vaccine associated paralyticpoliomyelitis:VAPP)が稀ながら発生する。また、OPVを接種した子どもの腸管からは、ワクチンポリオウイルスが排泄され、これが自然界で循環する間に遺伝子変異を生じ病原性が復帰し、この伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus:cVDPV)の感染によってポリオ様の麻痺が生じることも明らかとなった。

日本はもとより、世界中から自然ウイルス(野生株ポリオウイルス)によるポリオ例が消え去りつつある中、OPVを使い続けることによるVAPP、cVDPVによる麻痺例が新たな問題となった。ポリオウイルスを叩きのめす効果は若干劣るが、これらの副反応が発生しない不活化ポリオワクチン(inactivated polio vaccine:IPV)への切り替えが世界規模で行われている。

しかし、低所得国などでは様々な問題によりIPVを導入することができない国も少なくない。日本では、2012年からIPVが定期接種〔4種混合(DPT-IPV)ワクチン〕として導入され、現在では5種混合(DPT-IPV-Hib)ワクチンとなり便利になったが、「ポリオの予防をする」という目的意識が薄れてきている。

ポリオは、WHOを中心として天然痘(痘瘡)に次いで根絶を目標としている感染症である。日本は多くの子どもたちがきちんとワクチンを接種しているため、1981年以降野生株ポリオウイルス、cVDPVは発生していない。しかし、海外では、アフガニスタン・パキスタンに野生株ポリオウイルスが少数例、cVDPVの発生は2022年以降、イスラエル、米国、英国、カナダなど、ポリオがいったん収まったような国でもcVDPVの伝播が顕在化し、WHOは、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言している。前稿(No.5285)では、「麻疹」をテーマとして執筆し、「国内では鍵をかけて外からの侵入に備える(ワクチンを接種する)」と述べたが、ポリオについても同様である。

日本を含むWHOの西太平洋地域(Western Pacific Region:WPR)では、野生株ポリオウイルスの根絶宣言を、2000年の京都会議で行っているが、そこには日本の技術的、人的、資金的貢献が高く評価されている。現在、国際的にcVDPVへの警戒感が高まる中ではあるが、2025年11月に開催されるWPRポリオ根絶認定会議は、この四半世紀、WPRにおいてポリオゼロ状態が維持されていることを記念し、再び東京で開催される。

岡部信彦(川崎市立多摩病院小児科)[急性灰白髄炎][ポリオ

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