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【識者の眼】「政策の目標設定はスマートに!」坂巻弘之

No.5208 (2024年02月17日発行) P.65

坂巻弘之 (神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)

登録日: 2024-02-06

最終更新日: 2024-02-06

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2024年は6年ぶりとなる診療報酬、介護報酬の同時改定年であるだけでなく、第8次医療計画、第4期医療費適正化計画をはじめとした様々な計画の開始年でもある。医療費適正化計画に関連し、後発医薬品使用の目標も見直されることになっているが、本稿執筆時点(1月26日)では、具体的な目標は示されていない。23年6月29日の第165回社会保障審議会医療保険部会の資料では「金額ベース等の観点を踏まえて見直す」との記述があり、金額が新たな目標値になるのであろうか。

現在の使用目標の「後発医薬品のある市場を分母」とする計算方法は、筆者が12年10月31日開催の中医協薬価専門部会において海外の後発医薬品使用割合をもとに提案したものである。この計算方法を用いて13年度以降、新たな数値目標の設定・見直しがなされてきたが、当時も金額目標の議論はなかったわけではない。しかし金額目標は、薬価改定の影響を受けやすく、価格の異なる複数の後発品が存在する場合、より高額の製品を使うことにつながり、医療費コントロールの目的と矛盾するとの問題の存在もわかっていた。そのため、金額そのものは目標とはせず、医療費削減額を後発医薬品使用促進の取り組みに対する効果計測に用いることが妥当と考えられてきた。

医療機関では医薬品費は費用として計上され、決算資料には対予算比100何パーセントなどと示される。もちろん100%を超えることが「よし」とされるわけではない。医薬品費は変動費であるが、費用コントロールにより経営の自由度を高めることからも、より安価な医薬品を採用するなど、医療現場でも薬剤費削減をめざす。

これに対して国の金額目標は、医療現場の目標と正反対とも言える。その金額目標を実現するために、医療現場で薬剤費が増えてコスト増となった分を補塡するような新たな診療報酬上の加算が導入されるなら、医療費適正化計画の趣旨からしても、本末転倒である。

経営学で、成功する目標設定に「SMART」というものがある。SMARTは、それぞれ、Subjective/Specific(具体的である)、Measurable(測定可能である)、Achievable(達成可能である)、Relevant(関連がある)、Time-related(期限がある)の頭文字をとったものである(教科書によって単語が異なることもある)。金額目標は、国全体と個別医療機関や保険者の目標との整合性、全体の目標と個々の行動との整合性など、実現可能性や関連性において課題が多い。

金額目標の背景には、比較的高額なバイオシミラーの使用促進というもっともらしい説明もあるようだが、それなら、バイオシミラー使用促進でめざすべき方向性との整合性のとれた目標値の設定と使用促進手段を講ずるべきである。バイオシミラーについては「数量ベースで80%以上置き換わった成分数が全体の成分数の60%以上」との目標が示されているが、結局、この目標も金額目標との関連がみえず、医療現場や保険者が何をめざすべきかも不明確である。10年以上前の議論を思い起こすまでもなく、後発医薬品の新たな目標は、どうにもスマートとは程遠い。

坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価][ジェネリック使用目標]

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