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【識者の眼】「地域医療の新しい実践:コミュニティドクター」坂井雄貴

No.5212 (2024年03月16日発行) P.58

坂井雄貴 (ほっちのロッヂの診療所院長)

登録日: 2024-02-19

最終更新日: 2024-02-19

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地域医療が、最近関心を集めている。実際に若い学生や研修医の中にも、様々な領域別専門医の選択肢に加えて、医師としてのキャリアの早い段階で地域医療に従事する選択肢を考える人が増えているように思う。

私は、長野県軽井沢町にある、診療所と大きな台所があるところ「ほっちのロッヂ」という場所で、2020年から診療所の医師として外来・訪問診療を主に行っている。総合診療(家庭医療)の研修を終えた後、より地域に近い場所で人の健康を支える仕事に関わりたいと思い、新天地に飛び込んだ。

「社会的処方」という言葉をご存じだろうか。患者に薬ではなく、地域活動やアートなどのつながりを「処方」するこの取り組みは、医療のみでは根治が難しい慢性疾患が増えてきたことや、孤立が社会的な課題となり多くの健康問題への影響が研究でも示されたことで注目されるようになった。ほっちのロッヂでは「ケアの文化拠点」として、いわゆる診療のみでなく、こうした地域との様々なつながりをつくることを試みている。

地域医療の難しさであり、かつ醍醐味であるところは、年齢や性別、疾患といった属性をとらえた医療的な関わりのみでなく、地域の背景を理解した上で、また個別の人となりや家族、地域のコミュニティとの関わりが必要になってくることだ。これからの地域医療には、地域に暮らす人とともに暮らしや文化を共有し、健康という共通のゴールを見据えながら歩んでいくことが求められると思う。

医師は病気や診断、治療を学ぶことはあっても、地域住民というコミュニティ・集団を対象としたコミュニケーションや関わり方について、学ぶ機会は少ない。そのため、医療機関での医療の構造をそのまま地域に持ち出し、医師が指導し住民が教育を受ける、そんな関わり方が多い。時に問題となるのは、地域住民は患者ではないことだ。病気から人と出会うことが日常である医療者が、まちに暮らす人たちを患者のように扱っては、伝えたい情報や届けたい支援が届かないことがある。

こうした地域医療に関する様々な課題の意識や、何よりも地域住民と関わりたいという志を持つ仲間とともに2023年、「コミュニティドクターフェローシップ」というコミュニティを立ち上げた。地域住民を「健康を共創するパートナー」ととらえ、病院からまちに飛び出して、健康で幸せなまちづくりを探求、実践できる。そんな新しい地域医療の形を今、模索しながらも日々学び、実践している。これからの地域医療にはどんなことが求められ、医師は何を学んでいくといいのだろうか。これから皆さんとともに、考えていきたい。

坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター]

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