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【識者の眼】「地域医療とアート」坂井雄貴

No.5219 (2024年05月04日発行) P.63

坂井雄貴 (ほっちのロッヂの診療所院長)

登録日: 2024-04-10

最終更新日: 2024-04-10

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これからの医療のあり方を考える上で、医療とアートの関わりが注目を集めている。たとえばホスピタル・アートと呼ばれる取り組みでは、アートの力で病院などの医療環境を癒しの空間とする様々な試みがされている。患者や医療従事者が楽しめるように絵画などのアート作品が病室や通路に展示され、最近は物理的な作品に限らず音楽やパフォーマンスなどの文化芸術活動も医療機関で行われるようになった。

こうした医療とアートとの接続は、well-beingが叫ばれるようになった現代において、病院が医療を提供するための白い壁に囲まれた空間から、人間らしさ・生活を意識できる場所へと変化していくための重要なプロセスと感じる。また、アーティストがケアの現場に赴き、作品を展示し披露することは、アートへのアクセシビリティの担保と言えるだろう。病を持ちアートに触れることが難しくなった人たちもアートと接する機会を持つことができ、そこで働く医療従事者にとっても、アートに接することが心身の癒しとなる可能性もあるだろう。あるいはアートセラピーとして、治療の一環としてアートが活用される場合もあるかもしれない。

ここで注意したいことは、「与え手と受け手」という構造の存在だ。医療分野では長らく医療者と患者の関係性の不均衡・パターナリズムの問題が指摘されてきた。近年はshared decision makingやインフォームド・コンセントなど、医療者が患者と共通のゴールをめざすコミュニケーションが主流になっている。流行ともいえるアートと医療の関係性においても、こうした与え手と受け手の構造について意識的であることが必要だ。

たとえば社会的処方において美術館鑑賞を患者に「処方」する、といった表現がみられることがあるが、ケアの取り組みが医療の枠を超えて広がっていく希望とともに、well-beingに関わる様々な人の営みを医療の枠組みに取り込んでしまう危うさも感じる。

これは、医療の視点からアートとの関わりを考えるときに、医師患者関係や診断治療の構造にそのままアートを手段として持ち込み適用してしまうという問題であり、地域医療において、まちに医師が白衣を着たままに出ていき、医療の文脈を暮らしに持ち込んでしまうことと似ている。

医療福祉職でも、well-beingを広く届けるためにアートそのものや、アートを通した対話、コミュニケーションについて学ぶ人が増えている。医師としてのみではなく、ともに健康を目指す地域住民として地域医療を捉え直すときに、「与え手と受け手」「ケアする・される」といった不均衡な関係性から解き放たれ、フラットな関係性を作ることが重要であり、そこに一つ、地域医療とアートが手を取り合うことの大きな可能性がある。

坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療[コミュニティドクター][アート]

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