前稿(No.5265)では、抗インフルエンザ薬不足について執筆した。その後、インフルエンザ感染者数が急速に減少し、それに伴い抗インフルエンザ薬の返品が大幅に増加している。薬局や医療機関の過剰在庫は、医薬品不足の要因の1つであり、安定供給や在庫の適正化のために、返品禁止などの措置が必要であろうと述べたが、実際には在庫の返品が急増する結果となっている。
薬局等が過剰在庫を抱えたまま返品を禁止された場合、薬局は在庫を自己責任のもとで、どのように処理するのか。一部の薬局は、いわゆる「現金問屋」を通じて処分すると思われる。現金問屋とは、医療用医薬品を買い叩き、薬価よりも大幅に安価で薬局等に販売する業者であり、卸売販売業の許可は有しているものの、品質管理は一切行われていない。過去には、現金問屋を経由して偽造C型肝炎治療薬が流通したこともあった。安価で品質管理もされていない医療用医薬品を調剤し、薬価で保険請求することも問題である。
一方、現行の流通ルートにおいて、薬局が医薬品卸に医薬品を返品した場合、卸は当該製品が「品質基準」を満たしている場合に限り、他の薬局等へ供給することができる(これを「販売可能在庫」と呼ぶ)。この基準は「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」に規定されており、二次包装が未開封かつ損傷がないこと、返品が許容期限内であること、保管・輸送が適正に行われたこと、などの詳細な要件をすべて満たすことが求められる。しかし、実際には多くの返品品がこれらの要件を満たせず、販売可能在庫とはならない。その結果、卸を経由して製薬企業に返品された後、最終的に廃棄される。
薬局等からの返品を禁止した場合、在庫の多くは次のシーズンまで薬局等で保管されることになる。しかし、薬局等の品質管理はきわめて不十分であり、在庫保管には課題が多い。多くの薬局では、営業時間外にエアコンが稼働しておらず、仮に設置されていたとしても、製薬企業や卸のように保管のための温度・湿度管理は実施されていない。薬局自体が、粉塵が舞い散る環境とも言え、在庫に対する品質管理の概念が十分に確立されているとは言い難い。製薬企業の品質管理に対して厳しい指摘をしながら、薬局の品質管理の問題が放置されているのは皮肉である。
さて、2025年2月12日、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の改正案が閣議決定された。一方で、上述の医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインは、主に医薬品卸を対象とした指針である。しかし、医薬品は患者に届くまで一貫した品質管理下に置かれるべきであり、薬局や医療機関も同様に管理対象とする必要がある。さらに、本ガイドラインには法的拘束力がなく、あくまで指針にすぎない。
薬局における在庫管理の適正化を進めることは、過剰在庫を回避するための重要な方策でもある。薬機法改正の議論にあわせ、返品不可となった在庫品が薬局等で適切に保管されるよう、GDPの法制化を進め、薬局や医療機関も適用対象に含めるべきである。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[医薬品品質管理]