腫瘍に対しては細胞傷害性T細胞が誘導されるなどして,その排除のための反応が生じることが明らかにされているが,腫瘍はそれを回避する機構を備え増殖してくるものと考えられる。
腫瘍細胞は様々な免疫抑制物質を産生分泌する(図1)。
① TGF-βは転写因子NF-κBの活性化を抑え,T細胞の機能,樹状細胞の抗原提示能,マクロファージのサイトカイン産生能を抑制する。またレギュラトリーT細胞を誘導する。
② IL-10はTh1細胞,Th17細胞の機能を抑え,樹状細胞のMHCクラスⅡの表出(T細胞への抗原提示に重要),IL-12の産生(細胞傷害性T細胞の誘導に必要),マクロファージの炎症性サイトカインの産生を抑制する。
③ プロスタグランジンE2(PGE2)はT細胞,樹状細胞のcAMPを上昇させ,その機能を抑制する。
④ α胎児蛋白(α-fetoprotein;AFP)はT細胞の機能,樹状細胞の抗原提示能,IL-12産生を抑制する。
⑤ ガレクチン1はCD3に,ガレクチン3はT細胞レセプターに,ガレクチン9はTim-3に作用し,T細胞の機能を抑制する。
また,様々な免疫抑制細胞も腫瘍に集まってきている(図1)。
① 腫瘍中の低酸素状態,TGF-β・PGE2の存在などにより,マクロファージは免疫抑制の性質を示す(tumor-associated macrophage;TAM)。すなわち,TGF-β,IL-10,PGE2を生成するとともに,IDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)を発現してトリプトファンを枯渇させ,キヌレニンを生成してT細胞の機能を抑え,NOを生成して抗原レセプターやサイトカインレセプターからのシグナル伝達分子を阻害する。
② 骨髄系由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell;MDSC)も腫瘍の産生するケモカイン(CXCL5,CXCL12)により集まってきて,サイトカイン(IL-1β,IL-4,IL-6,IL-10,IL-13,GM-CSF,VEGF)により誘導され,TGF-β,IL-10,NOを産生して免疫抑制作用を示す。
③ 樹状細胞は低酸素,低pHという腫瘍内環境では,TGF-β,IL-10,NO,IDOを生成する。またTGF-β,IL-10,PGE2,VEGFなどの作用で,共刺激分子の表出が低下した非活性樹状細胞となり,その提示する抗原に反応したT細胞をアネルギーに導く。
④ CD4+CD25+Foxp3+レギュラトリーT細胞は腫瘍からのケモカイン(CCL21,CCL22,CCL28)により集まってくるし,TGF-βの存在下に分化する。
⑤ IL-10を産生するTr1細胞,TGF-βを産生するTh3細胞,IL-10産生CD8+T細胞も腫瘍内に多く存在する。
⑥ 腫瘍細胞からのTSLPは樹状細胞にTh2細胞を誘導させるが,Th2細胞は腫瘍免疫に必要なTh1細胞を抑制する。
さらに,腫瘍細胞は様々な分子を表出し,T細胞などの機能を抑える。
① Fasリガンドを表出し,活性化されFasを表出したT細胞をアポトーシスに導く。
② PD-L1を表出し,PD-1を表出したT細胞をアネルギーに導く。
③ CEACAM-1を表出し,T細胞・NK細胞上のCEACAM-1に作用させて機能を抑える。
④ CD200を表出してCD200Rに作用させ,Th1細胞,樹状細胞,マクロファージの機能を抑える。
そのほか,① 腫瘍抗原の表出を低下させる,② 腫瘍抗原を遊離してT細胞の抗原レセプターを遮断する,③ シアロムチン・ヒアルロン酸などの基質物質で腫瘍抗原を覆うといった機序も働く。