巻頭言
我々神経内科医は,「脳」を診る「内科」という大きなくくりの中で,それぞれが1つないし2つの中心となる専門領域を持って研究や診療に携わっていることが多いと思います。そして,我々が日常診療で診る病気はパーキンソン病であったりアルツハイマー病であったりしますが,患者さんがそれと知って神経内科を訪れるのではありません。自分が悩んでいるこの不快な症状はいったいなぜ起きているのか,どんな病気のせいなのかを知りたくて,またその病気の治療を望んで来られるため,我々は常に正しい鑑別診断とそれに基づく治療を行うことが求められます。
「正しい鑑別診断と治療を行う」ために,どの科を専門とする医師にも共通することですが,専門領域について最新の,そして深い知識を習得することは当然であり,さらに専門外の領域についても「知らなかった」ではすまされません。
そこで,専門外であってもパーキンソン病を理解したい医師のために, 2009年10月号のjmedmookで本疾患が取り上げられましたが,大変好評を頂き,3年目となる本号で再度取り上げることとなりました。今回は新規項目も盛り込み,新たな専門医に執筆者として加わって頂き,より充実した内容になったと思います。
神経科学は日々進歩を遂げ,治療薬1つ取り上げても,この3年間に新薬が数種類上市されています。また,パーキンソン病は治療において最も匙加減の必要な神経疾患で,薬の種類が増えて処方の選択肢が増えた分,匙加減が複雑化したともいえ,診療に際しては最新の知識や経験が不可欠といえます。
さらに機能的外科手術は,neuromodulationとしての位置づけになり,進行期だけでなく,より早期からの導入も視野に入ってきた感があります。
運動症状は今なお,パーキンソン病治療のコアであることは間違いありませんが,自律神経症状,睡眠障害,精神症状,認知機能障害などの非運動症状は,QOLに大きく影響する因子とされています。本号ではこの非運動症状についても重点を置きました。
また 2012年,山中伸弥博士のノーベル生理学・医学賞受賞により一躍話題となった induced pluripotent stem cells(iPS細胞)が最も神経系で効果を発揮する細胞移植療法についても詳細に解説して頂きました。
コラムについては前回同様,患者さんにも役立つ内容を取り上げました。そして,パーキンソン病では何より,診療する医師が明るく,患者さんが前向きになれるようなスマイルを投げかけて元気を与えることが大変重要です。
本書が少しでも読者の診療の手助けになればと切に願っています。