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【識者の眼】「悲しい事件を契機に地域で思いを共有」中野智紀

No.4998 (2020年02月08日発行) P.60

中野智紀 (北葛北部医師会在宅医療連携拠点菜のはな室長、東埼玉総合病院)

登録日: 2020-02-09

最終更新日: 2020-02-04

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2019年8月、埼玉県杉戸町の閑静な住宅地で悲しい事件が発生した。報道によると、母親である80代の女性が自宅で死亡した状態で発見され、同居していた次男が首を絞めて殺害したと自首をした。次男は介護疲労からの犯行と話している。

周辺の住民からは自宅近くで発生した事件に不安の声が上がった。同地域はかつての新興住宅地で、近年は急速に高齢化が進行しているため、同年4月に杉戸町が地域包括支援センターを新設した矢先に発生した事件であった。

著者は同地域の地元医師会で地域包括ケア担当理事を拝命している。担当として支援を届けられなかったことの悔しさを感じるとともに、事件が住民の暮らしに及ぼす影響を心配していた。同地域は都内や町外から転居されてきた比較的裕福な住民が多く暮らし、他地域同様に自治会加入率も低かった。住民の中には、「住宅の区画を隔てる道路は、マンションの廊下のようなもの。人々のつながりを分断している」と揶揄する者もいた。

事件後に開催された行政主催の会合へ参加させて頂くと、地域の民生委員からも責任を感じる、もう少し何かできなかったのか、という趣旨の発言が相次いだことに驚かされた。その後、同地域の区長らと、事件を総括して地域を前へ進めることの必要性について話し合った。そして、誰でも参加できるタウンミーティングを開催することになった。

タウンミーティングは平日の昼間の開催ではあったが、多くの住民が参加してくださった。地域包括支援センターや医師会立の在宅医療連携拠点(以下、両拠点)も参加して頂いた。区長からの挨拶と事件発生から会開催に至る経緯についての説明があった。また、既存の枠組みを超えて、対話を通じて交流することの大切さを訴えた。その後、参加者ら全員で意見交換を行い、日頃不安に感じていたことや、問題解決へ向けたアイデアなどを出し合った。

悲しい事件が契機となったが、地域で暮らす住民たちの思いや対話を通じて、再び地域の繋がりを生むこともできる。そのためには規則や組織に縛られず、時に公的な支援を受けることも肝要だ。今後、定期的な交流の場や、参加した両拠点らによる総合相談窓口を、この新しく出来たコミュニティに設置していく予定である。

中野智紀(北葛北部医師会在宅医療連携拠点菜のはな室長、東埼玉総合病院)[コミュニティドクターの地域ケア日誌①]

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