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【識者の眼】「ベンゾ系薬剤処方は頓用で」上田 諭

No.5000 (2020年02月22日発行) P.8

上田 諭 (東京医療学院大学保健医療学部教授)

登録日: 2020-02-25

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睡眠薬や抗不安薬のほとんどを占めるベンゾジアゼピン系薬剤(BZ)は、高齢者に転倒や認知機能障害の危険があると注意喚起されている。日本老年医学会では、高齢者に慎重な投与を求め、特に長時間作用型BZは使用するべきではないとする指針を出している。ところが、昨年12月、実態として全年代で見ると65歳以上に処方が集中し、特に80歳代がピークだとする厚生労働省のデータが報じられた(12月8日朝日新聞一面トップ)。

BZが高齢者に好ましくないことは、老年医学の世界では何十年も前から指摘されていることだ。にもかかわらず、かかりつけ医や精神科医が高齢者に多く処方しているのは、おそらく高齢者で訴えの増える不眠や身体不定愁訴に対応するためだろう。BZは即効性があり、患者が効果をすぐに感じやすい。しかし、それがBZに対する薬物依存を作る背景にもなっている。

不眠に対しては本来、日中の活動性維持など生活指導が治療の第一である。不定愁訴は、孤独感や張り合いのなさが「身体化」していることが多く、生活の話や悩みに医師が耳を傾ける姿勢が重要だ。しかし、多忙な外来診療で高齢者の話に付き合う余裕がなく、手っ取り早くBZで対処した結果が現状であろう。なお、頑固な不定愁訴の中にはうつ病もあり、BZでは治癒しない。

新聞報道には具体的薬剤名も記されていたため、自分の飲んでいる薬が「高リスク薬」だったことに不安を感じた人も多かったはずだ。BZ処方をすぐ止めようと決意した医師もいただろう。しかし、急な中止は不安や振戦、けいれんなど離脱症候群を発生させかねない。期間をかけた漸減が基本である。

BZを処方する時は頓用で用いる。それを旨としたい。BZは元来、有害な薬ではない。使い方次第である。上手に使うことで患者にメリットが少なからずある。頓用で効果が出たから定時薬に移行しよう、ではなく、効果が出てほっとしたところで自分の生活を見直す、それを医師と話し合う、に進んでほしい。万一の時の「お守り」としてBZは大事にとっておくことにしてほしい。

上田 諭(東京医療学院大学保健医療学部教授)[高齢者医療]

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