No.5009 (2020年04月25日発行) P.59
堀田 修 (認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長)
登録日: 2020-04-16
最終更新日: 2020-04-16
昨今の世界情勢を見る限り、新型コロナウイルス感染の封じ込め政策は残念ながら失敗に終わり、結局のところ、新型コロナウイルスと人類の共存が残された道のように感じる。そこで、これから先は、これまで以上に一人ひとりの感染をいかに防ぐかという点に焦点をあてる必要がある。
わが国におけるクラスター感染が生じた背景の検証や、新型コロナウイルスがエアロゾル化した状態で数時間にわたり生存することが証明されたこと等から、新型コロナウイルスの感染様式としてエアボーン感染、つまり空気媒介感染がきわめて重要であることが広く認識されつつある。これに伴い、新型コロナウイルス感染対策として、従来の手洗い、マスク、社会的距離(個体距離)に加え、施設や乗り物における換気の重要性が最近では強調されている。
肺炎を発症するまでの新型コロナウイルス感染症の諸症状は、「のど風邪」の原因ウイルスとして知られる従来のコロナウイルス同様、「急性鼻咽腔炎(急性上咽頭炎)」の症状に矛盾しない。それ故、体内に入った新型コロナウイルスの最初の感染部位が上咽頭を中心とする鼻咽腔粘膜であることは疑う余地がない。
新型コロナウイルスの潜伏期間は平均5日間(4〜7日)で、インフルエンザ(1〜2日)に比べてかなり長く、ウイルスのエンベロープが鼻咽腔の細胞膜と融合して細胞内に取り込まれ、感染が成立するまでに比較的時間的猶予があるといえる。そこで、空気を媒介して鼻咽腔に侵入した新型コロナウイルスが、粘膜上皮細胞に取り込まれる前の段階で洗い流してしまえば、ウイルス感染を未然に防ぐことができるのではないか、という推論が成立する。
それを簡単に可能にする手段が鼻うがいである。今でも「鼻うがいは痛い」という先入観を持っている人は少なくないが、実際には0.9%等張食塩水を用いれば、鼻うがいを不快感なく簡単に実施できる。さらに、塩化ナトリウムに重曹を加えて弱アルカリ化すると、細胞の繊毛機能が向上するという報告もある。
現在、使い勝手のよい、数種の鼻うがい器具が既に市販されている。使用する洗浄液は自身で調製することも可能だが、鼻うがい一回分に分包された塩化ナトリウム粉や重曹入塩化ナトリウム粉が市販されており、それらを活用すると便利である。
新型コロナウイルス感染症は人類初の経験であり、鼻うがいのエビデンスはどこにもない。しかし、今後、有効なワクチンが登場する数年先まで、個人のレベルでこのまま、手洗いとマスク以外に何もしなかったら、この先も困難な状況が続くことは自明である。毎日1〜2回の鼻うがいという新型コロナウイルスに対する積極的感染防御の習慣が国民に広く定着することにより、新たな地平が拓かれることを期待したい。
堀田 修(認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長)[新型コロナウイルス感染症]