株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「ACP(1):事前の意思表示がないと家族は後悔する」杉浦敏之

No.5010 (2020年05月02日発行) P.61

杉浦敏之 (杉浦医院理事長)

登録日: 2020-04-29

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2018年3月、厚生労働省は「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂し、advance care planning(以下、ACP)の重要性を明記した。そしてその啓発・普及のためにACPを「人生会議」とした。ACPは今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスであり、その目標は、重篤な疾患ならびに慢性疾患において、患者の価値観や目標、好みを実際に受ける医療に反映させることである。その実践により患者やその遺族に利益があることが海外から報告されており1)、筆者の行っている在宅医療の現場でもACPの重要性を肌で感じることは間違いない。

「エンディングノート」なるものを、その一助として発行する自治体が増加している。しかしながら、自分が死に直面する状況の時にどうしたいかを家族の前で語ろうとする時には、おそらく「そのような縁起の悪い話はしないでくれ」というような言葉で誰かにさえぎられてしまうことが多いのではと思う。本人も話しづらいし、家族も聞きたくない。それが日本の現状であろう。ただ、必ずいつかは重い選択をしなければならなくなる時が来る。その時に事前の本人の意思表示がないと、家族は、積極的な治療をするかしないか、どちらを選択しても後悔することとなる。なぜなら、積極的な治療をして回復しなかった場合、結果的に苦痛となる人工呼吸や血液浄化などを行って死に際に本人を苦しめてしまったのではないかという感情が起きやすく、積極的な治療をしなかった場合は、治療をした場合よりも本人の寿命を縮めてしまったとの感情が起きやすい。下手をすると「お前が殺した」などと、心無い言葉を浴びせる親族がいないとも限らない。また、米国で「カリフォルニアから来た娘症候群」2)として知られる、遠い親戚が突如として現れて、治療方針を混乱させることも日常診療で経験することである。したがって、ACPを家族と話し合い、できれば親族にもその内容を伝えておくことが重要である。ところが、いまだに普及の途上であるACPに限界や問題点があることも指摘されている3)。次回はそれについて述べようと思う。

【文献】

1) Detering KM, et al:BMJ. 2010;340:c1345.

2) Molloy DW, et al:J Am Geriatr Soc. 1991;39(4):396-9.

3) 由井和也:在宅新療0-100. 2019;4(12):1151.

杉浦敏之(杉浦医院理事長)[人生の最終段階における医療②]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top