第4回目はSDH(social determinants of health、健康の社会的決定要因)の一つであるスティグマについてお話しします。スティグマとは権力の下で一部の属性にラベリング(レッテルを貼ること)し、ステレオタイプ(固定観念)なイメージを持つことで、偏見や差別が起きる状態のことを言います。最近では新型コロナウイルスが「武漢ウイルス」と言われたことや、新型コロナウイルスに罹患した人に対する非難やその関係者に対する差別が大問題となっています。医療関係者の中にも障害者、LGBTQsの人々、生活保護受給者、薬物依存患者などのスティグマ現象が存在します。肥満、依存症など本人のコントロール下にあると誤解されがちな属性ほどスティグマ現象が起きやすく、これをスティグマの帰属理論と言います。スティグマは当事者に向けての公的スティグマ、当事者自身が劣等感を持つ自己スティグマがあります。スティグマの影響で受療行動が制限されたり、不安障害、自殺などの健康被害が起きたりしていることがわかっています。
前回(No.5009)社会的処方のお話をしましたが、社会的処方は薬物処方と同様、受け取る患者さんが服用しないと効果がなく、場合によっては薬害を引き起こします。例えば貧困が病気を引き起こしている事例で、医療者は生活保護申請を提案することがよくあります。しかし意に反して患者さんは住居を奪われ、雇用や収入がなくなり、人間関係が変わり、社会的孤立を招くかもしれません。貧困というSDHを持つ人に対して生活困窮者であるというスティグマが新たなSDHとなり、患者さんの個性を無視し、患者さんの人生を左右する力となって作用することがあります。その社会的処方は患者さんの意向に沿っているのか?処方が患者さんの人権を奪っていないか?処方で患者さんの人生の満足度は上がるのか?を考えなければなりません。
私たちには、無意識のスティグマを認識し排除する努力が必要です。「自分では〜〜できない人」「〜〜してあげるべき」との考えを捨て、患者さん個人の声を十分に聞くことが重要です。
西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH④][健康格差][スティグマ]