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【識者の眼】「久保流育児の三原則の1つは『頑張らない』」久保隆彦

No.5016 (2020年06月13日発行) P.62

久保隆彦 (代田産婦人科名誉院長)

登録日: 2020-05-25

最終更新日: 2020-05-25

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産科医を30年以上やってきた私はメンタルヘルストラブルを抱える母親に共通点を感じるようになった。そこで、随分前から母親学級でその対応として久保流「育児の三原則」の話をしている。ある著名な女流作家が自らの過酷な育児体験を産婦人科の学会で特別講演して頂いた際に、私の「育児の三原則」の話をしたところ壇上で落涙した。彼女が言うには誰もそんなことを言ってくれる人はおらず悲惨な育児だったとのこと。

育児の基本は「親亀こけたら子亀もこける」である。伝説的小児科医によれば、発熱、嘔吐など種々の症状の赤ちゃんを母親が連れてきた時には、母親のメンタルを含めたケアをすることで赤ちゃんの症状が良くなるとのことであった。これは母親のストレスを赤ちゃんが敏感に感知し、しゃべれないので肉体症状で周囲に訴えているのではないかとのことであった。このことから以下の3つの対応が大切と考えた。

①「頑張らない」:真面目な日本人女性は育児では必ず頑張る。特に妊娠前に働いていた女性は頑張ることが美徳だと勘違いしている。たとえば、赤ちゃんが寝た時に家事を行い睡眠不足となり、精神的に追い込まれていく。マタニティーブルースで決して言ってはならない禁句は「頑張れ」であることは良く知られている。「頑張らない」ことは決して容易ではなく、母親なら頑張って当然という家族からの期待も大きいからである。②「赤ちゃんと楽しむ」:育児は過酷で余裕が無くなることが多いため、赤ちゃんと目と目を合わせる、おっぱいを含ませるなど楽しみながら母子関係を醸成する。③「それでもどうしてもやらなければならないことは夫、家族に押し付ける」:これも言い出しにくいことだが、母親の心的・肉体的負担を除去することが育児期では極めて大切である。

逆に言えば、なりふり構わず一生懸命育児に没頭している余裕のない母親は特に要注意である。

久保隆彦(代田産婦人科名誉院長)[周産期医療(産科、新生児医療)]

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