No.5019 (2020年07月04日発行) P.63
楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)
登録日: 2020-06-19
最終更新日: 2020-06-19
前回(No.5011)は生後早期からのスキンケアによるアトピー性皮膚炎の予防効果について議論があることを紹介しましたが、今回は食物アレルギー予防に有効かどうか、というテーマを取り上げます。
Lackら1)が2008年に提唱した有名な二重抗原曝露仮説(dual-allergen-exposure hypothesis)は、生後早期に経口的に摂取された食物抗原は消化管で免疫学的耐性を獲得するのに対し、湿疹でバリアが障害された皮膚から侵入した食物抗原は経皮感作を起こして食物アレルギーにつながりやすい、というものでした。この説に従えば生後早期からのスキンケアで皮膚バリアを維持すれば食物アレルギー予防が期待できることになります。
実際、アレルギー家族歴のある出生コホートを対象に、生直後から保湿剤を1日2回塗り続けた群(21名)と対照群(36名)で生後12カ月のアレルゲン感作率を比較したところ、前者で食物アレルゲン感作が有意に低下したと報告されました(0% vs 19.4%)2)。さらに日本における後方視的検討では、アトピー性皮膚炎を発症した乳児のうち発症4カ月以内に十分なステロイド局所療法を行って湿疹が早期に改善した群(75名)では、発症4カ月以降に同様の十分なステロイド治療をした群(67名)に比べて2歳時点での食物アレルギー有症率が有意に低かった(25.3% vs 46.3%)、とのことです3)。いずれもまだ予備的研究の段階ですが、今後の前方視的大規模介入研究の結果が期待されます。
【文献】
1)Lack G:J Allergy Clin Immunol. 2008;121:1331-6.
2)Lowe AJ, et al:Br J Dermatol .2018;178:e19-e21.
3)Miyaji Y, et al:J Allergy Clin Immunol Pract .2020;8:1721-4.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[食物アレルギー]