No.5024 (2020年08月08日発行) P.58
渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)
登録日: 2020-07-22
最終更新日: 2020-07-22
日本の新型コロナウイルス感染症対策は世界標準とは異なり、無政府状態である。むしろ政府は経済か感染症対策かとの対立軸を作り、日本国民の分断を図っているように見える。まさにトランプ流のやり方である。PCR検査を徹底して、陽性の人を隔離し、陰性の人で経済を回すのが世界の常識で、先進国の多くはこれによって感染を抑え込んでいる。
私は今までずっとPCR検査を拡充すべきであると言ってきた。ようやく最近になって日本でもPCR検査を増やしているが、今でも東京都は1日数千件だという。しかしこれはニューヨーク市の数十分の1で圧倒的に少ない。中国では武漢の人口1000万人に対し、約3週間でPCR検査を全員に行い、感染拡大を抑えこんでいる。これに対し日本では中国の発表は信用できないと言う。そもそも日本では感染症の専門家と称される人の多くが、政府と一体となってPCR検査に反対していた。2月頃はPCR検査を行うと医療が崩壊する、その後は、PCR検査は大変で、手間がかかるからなどの言い訳をする。しかし先進国は日本の何十倍、何百倍の検査を行っている。さらに最近は、PCR検査は感度が低いからと言い訳をする。臨床的に感染が疑われる人はPCR検査を2回行えば、感度は100%近くなる。PCR検査もしないで、経済活動させる方がはるかに危険である。
そもそもPCR検査を絞り、感染者数を十分把握しないまま、自粛を解禁すれば、感染が拡大するのは自明のことである。さらにGoToキャンペーンである。日本政府は「国民の健康と安全を守る」と常日頃から言っていたのであるが、高齢者はその対象には含まれないのであろうか。
自粛を要請しないでGoToキャンペーンを行うのであれば、旅行者全員のPCR検査を行い、陰性の人だけが旅行すればよい。しかし、感染症の専門家と称される人は、検査翌日に感染したらPCR検査でもつかみきれないと言って、反対する。このような人が日本の感染制御にかかわっているのかと思うと空恐ろしい。
また政府はwithコロナなどのキャッチフレーズを作り、厳重な感染防御をすればGoToトラベルを行っても大丈夫と言うが、具体的にどのようなことが厳重な感染防御かは一般の人にはわからない。医学専門家でも感染防御を充分に行っていないことが、院内感染や横浜のクルーズ船の事例を見れば明らかである。実際横浜のクルーズ船では感染防御に厚生労働省や日本環境感染学会が関与していたことが報告されている。医療崩壊防止のために、大切な税金を優先的に使っていただきたい。
渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[新型コロナウイルス感染症]