伊関友伸 (城西大学経営学部マネジメント総合学科教授)
登録日: 2025-06-24
最終更新日: 2025-06-18
2025年1月から半年にわたって執筆した本連載も最終回を迎えることができた。本稿では私事ではあるが、筆者に起きた事件と、事件を通じて日本の医療・介護について考えたことを書きたい。
2025年5月17日午後8時、87歳の母親が交通事故に遭った。自治会の会合に出席した帰り、交差点の横断歩道を歩いていたときに前方不注意の自動車にはねられた。頭を強く打ち、意識不明の重態で近くの公立病院の救急外来に運ばれ、筆者は警察からの連絡で病院に向かった。病院の医師の説明では、急性硬膜下血腫で、緊急の手術が必要な状況であった。左の頭蓋骨を外し、溜まった血を抜く手術を行ったが、術後のCTを見ると、左脳全体が脳梗塞状態で、脳幹にもダメージが出ていた。医師の説明を聞き、元に戻ることはないと覚悟した。すぐに看取りとなってもおかしくない状況ではあったが、母親は12日間頑張り、5月28日午前0時15分に逝去した。
母親の危篤状況で顕在化した問題が、89歳の父親の介護であった。筆者は両親の自宅近くに別居していた。父親は要介護1。歩行はやや不自由で杖をつき、認知の状況も少し怪しくなってきている。嚥下にも不安を抱える。そして、食事・洗濯・掃除など、生活のすべてを母親に頼ってきた。母親の危篤状況により、父親は自宅での生活を維持することが困難となった。わが家で父親の介護をすることとなったが、筆者と妻は仕事をしており、このまま父親を引き取ることは困難な状況にあった。たまたま、父親が通う通所リハビリテーション施設が、介護老人保健施設を運営しており、父親はそこに入所できることになった。
今回、両親の医療介護問題の当事者となり、日本の医療・介護制度がどれだけありがたいものであるかを実感した。このような体制をつくりあげた先人たちの努力に、心から感謝の気持ちが沸いた。
しかし、このようなありがたい日本の医療介護体制が危機に直面している。目下の問題は抑制されすぎた医療・介護報酬である。財務省が予算を握っている中で、医療・介護の現場が、持続可能な運営をできる十分な財源が確保できるかは、非常に厳しい状況にある。最後は医療・介護の恩恵を受ける国民が、どのように考えるかである。
今起こりつつある問題、そして、これから深刻な問題となるのが医療・介護の人材である。出生数が減少している中で、どれだけ医療・介護分野に人材を確保できるか。仕事の厳しさと給料の少なさで、医療・介護分野への就業をためらう若者が少なくない中、どれだけ働きがいのある就業先とできるかが焦点となる。
厳しい未来が到来する可能性が高い中で、少しでも日本の医療・介護制度がよいものであり続けられるように、研究者として発言をしていきたい。
今回お世話になった医療・介護関係者の皆様に改めて感謝を申し上げるとともに、亡き母の冥福を祈りたい。
伊関友伸(城西大学経営学部マネジメント総合学科教授)[医療介護体制]