No.5026 (2020年08月22日発行) P.61
大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
登録日: 2020-07-29
最終更新日: 2020-07-29
前回(No.5022)、特定保健用食品(トクホ)の機能性はランダム化比較試験で検証されていることに触れた。しかし、トクホ製品だけ摂取してさえいれば健康を維持できるというものではない。今回、トクホにおける機能性“以外”の役割について紹介する。
人は一度身についた習慣を変更することがなかなかできない。食生活も然りである。筆者も、小腹が空いたときの間食、日課のような晩酌、深夜のラーメンなど、やめたくてもやめられない悪習は数え切れない。もちろん、規則正しくバランスの取れた食事が健康の維持のために重要であることは十分に理解をしている。しかし、頭で分かっていても実行に移せないのは人間の性(さが)である。そこで、乱れた食生活をいっぺんにすべて正すのではなく、実行可能なところから少しずつ取り組む形で、行動変容を促す戦略は一考の価値がある。例えば、晩酌のビールを週に1回トクホのノンアルコールビールに変えるのであればハードルはぐっと下がる。ビールやコーラなど嗜好品のトクホがあることに違和感を覚える読者もいるかも知れない。しかし行動変容の動機づけとしての役割をトクホが担っているとすれば、その存在意義が違って見えてくるのではないだろうか。
すべてのトクホ製品には「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」の表示が義務付けられている。この目的は国民の健康づくりにおいて消費者にバランスの取れた食生活の重要性を伝えることとされている1)。しかし、トクホの広告では利用者が「これさえ飲めば、何を食べても大丈夫」と錯覚してしまいかねないようなものが散見される。トクホを製造販売する企業においては、バランスの取れた食生活という原理原則に立ち返り、その上で利用を勧める広告を心がけていただきたい。
【文献】
1)消費者庁:特定保健用食品に関する質疑応答集(平成28年1月8日消食表第5号)
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑧]