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【識者の眼】「ソーシャルキャピタルと健康(前編):社会とのつながりが健康を支える」西村真紀

No.5024 (2020年08月08日発行) P.60

西村真紀 (川崎セツルメント診療所所長)

登録日: 2020-07-29

最終更新日: 2020-07-29

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第8回は、健康の社会的決定要因(social determinants of health:SDH)の中の一つ「ソーシャルキャピタル(以下、SC)」についてお話しします。SDHでのSCは日本語では「社会関係資本」と訳し、その意味は「人々のつながり」「ネットワーク」「人間関係」「絆」です。

SCの強い人ほど健康に関する情報を多く得られ、健康を保ちやすく健康観が高い傾向にあります。SCの弱い地域の女性は要介護になる危険性が約1.5倍以上高いことがわかっています。SCの強い人は認知症の発生リスクが低いと言われています。また高齢者の運動と要介護発生率に関するある調査では①一人で運動をしている人、②運動仲間と運動をしている人、③運動仲間がいるが運動にあまり参加していない人─の要介護発生率は、高い順に①>③>②でした。この調査では高齢者が健康を保つ要因は運動よりも人と会うことだったのです。

ハーバード大学のKawachi教授によると、日本人が長寿であることはSCが高いことと関係しているそうです。人との絆を重視する日本の文化が日本人の健康を支えてきたとも言えます。Kawachi教授はSCが個人の健康に与える経路として①他人への影響(周りにつられる)、②非公式な社会統制(他人からの目)、③集団行動(スポーツ大会など)、④ストレスの軽減─があると述べています。

またSCは社会全体の健康に対しても効果があります。SCは、地域に助け合い精神を生み、地域で弱っている人を早く発見し介入する力となり、さらには地域の健康問題を行政につなぐ役割を果たします。

ウィズコロナの時代、人とのつながりが極端に減ってきています。公園での体操、おしゃべり、デイサービスなど、ことごとく人との付き合いをやめて社会から孤立している高齢者が多くなっています。若者はオンラインなど社会とのつながりを保つ様々な工夫をしていますが、その流れから取り残された高齢者世代のSCをどう取り戻すのかが課題となっていると思います。

次回はSCを育む取り組みと課題についてお話しします。

西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)[SDH⑧][ソーシャルキャピタル

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