No.5024 (2020年08月08日発行) P.61
渡邉一宏 (公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)
登録日: 2020-07-29
最終更新日: 2020-07-29
2020年度の胃がん内視鏡検診数が激減している。3月末の日本消化器内視鏡学会の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応提言から当院では内視鏡検診を中止、さらに受診者自身もコロナ禍で控えていた。6月1日から検診を再開したが受診者は戻ってこない。この傾向はCOVID-19感染者数の多い東京都内でより顕著と思われる。
さて、この内視鏡検診は長らく任意型人間ドック(自費)において有益であろうとの憶測で行われてきた。2015年になり初めて日韓の症例対照研究結果から国立がん研究センター、厚生労働省により内視鏡検診の胃癌死亡減少効果が示された。これに伴い2017年10月から我々の東京世田谷区でも世田谷区医師会と玉川医師会の2医師会の主導により対策型内視鏡検診(50歳以上2年毎)が開始された。区全域の診療所895、病院27のうち医師会からの内視鏡検診受諾施設は88であり、当院の立ち位置は診療所の検診許容超えの後方支援である。当院人間ドックの任意型内視鏡検診の胃癌検出率は2011年からの3年間で0.21%(経鼻と経口で有意差なし)であり、これに対し当区対策型内視鏡検診の同検出率は2017年度の半年間で3816人中9人、0.24%(田代博一,他:第18回世田谷区医師会医学会.深井健一:第3回玉川医学会)、東京都全体では2017年度の1年間で3万6819人が受診し0.30%であった(プロセス指標≧0.11%、東京都福祉保健局)。
自己負担金(図)が少ないことで検診数は毎年増加していたが、このコロナ禍で激減した。当院検診数は前年度比1/6である。国民の多くから検診が不急として軽視される一方で、米国(Sharpless NE:Science. 2020;368:1290.)や我々の現場からもCOVID-19によりスクリーニングなどの後退から癌死増加を危惧する意見も多く、検診に携わる医師の総意と思われる。私も同意見であるが、5年後に内視鏡検診空白期間が胃癌にどの程度の影響を及ぼしたかについて逆の意味での検証は必要である。
渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献][胃がん内視鏡検診①]