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【識者の眼】「ACPとは事前指示を決めることではない」川口篤也

No.5034 (2020年10月17日発行) P.61

川口篤也 (函館稜北病院総合診療科科長)

登録日: 2020-10-06

最終更新日: 2020-10-06

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「あの患者さん、DNARなのにどうして救急搬送するの?」という会話を聞いたことがあるだろうか。この発言には不適切な部分が2カ所ある。一つ目はDNAR(do not attempt resuscitation)とは心肺停止時に心肺蘇生をしないことを確認したのであって、急な発熱や意識障害等で原因がわからない場合に診断、治療等何もしないと決めたわけではないということ、二つ目にDNARオーダーは退院などで状況が変わった場合には見直されても良いということである。今でもDNAR=何もしない、と思っている医療者もいる。ACP・人生会議が世間で言われるようになり、医療者も意識するようになってきたが、ACPはDNARや人工呼吸器をつけないなどの、終末期の医療行為をする・しない(事前指示)を決める話し合いをすることと思っている人もいる。もちろん話し合いを重ねた結果、事前指示が決まることは構わないのだが、最初からそれを決める話し合いをすることがACPではないのである。

在宅の患者さんで、基本は病院に行くのも入院もしたくない、最期も家で亡くなりたいと何度か話しており、家族も同じ意見の人がいたとして、このような患者さんでも病院に行くこともある。例えば血尿が続き、当初は検査のための受診も望んでいないので止血剤等で在宅にて経過を診ることで合意していたが、血尿が続くため病院での検査に気持ちが傾き紹介受診することもある。その結果進行した癌が見つかり、本人、家族の今までの意向を踏まえ在宅での緩和ケアをすることもあれば、切除できる膀胱癌が見つかり、当初本人が希望していなかった入院、手術をする人もいる。

ACP・人生会議とは、本人の価値観を周囲の人が理解していく話し合いを続けていくことであって、一度話したことが全てではなく、状況が変化するにつれ、その都度今までの話し合いを踏まえながら何が最善かをみんなで頭を悩ませていく行為なのである。これが地域の共通認識となり、地域全体でACPを紡いでいけるようになることを願っている。

川口篤也(函館稜北病院総合診療科科長)[人生会議②]

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