No.5039 (2020年11月21日発行) P.61
楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)
登録日: 2020-10-30
最終更新日: 2020-10-30
近年腸内細菌叢がヒトの免疫機能やその制御に重要な役割を果たすことが知られるようになり、生活習慣病をはじめ様々な病態における腸内細菌叢の役割が注目されています。アレルギー疾患患者についても腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)があることが報告されてきました。そこで、乳児期早期のみならず妊娠中や授乳中の母親に対してプロバイオティクス、プレバイオティクスを投与することでアレルギー疾患の予防や治療につなげようとする試みが行われてきましたが、現状ではアトピー性皮膚炎予防効果があるとの報告があるもののエビデンスレベルは低く、他のアレルギー疾患については有意な効果が認められていません。
しかしながら、最近になって腸内細菌叢を調節することで食物アレルギーが治療できる可能性を示す動物実験のデータが相次いでNat Med誌に報告されました1)2)。いずれの報告も、食物アレルギーモデルマウスにヒト乳児の腸内細菌を移植する実験で、健康児由来腸内細菌がアナフィラキシーや抗原感作を抑制するのに対して、食物アレルギー児由来腸内細菌は抑制しませんでした。また菌種は異なりますが、いずれの報告も抑制効果を持つ菌を具体的に同定しています。短鎖脂肪酸など菌が産生する何らかの代謝産物が抑制効果に関与していることが示唆されています。さらに一方の報告では腸内細菌移植によって誘導されるMyD88依存性RORγt陽性制御性T細胞が予防効果の鍵を握っていることが示されました2)。これらの結果をもとに、成人ピーナッツアレルギー患者を対象とした腸内細菌移植治療のパイロットスタディが始まっているようです3)。また、現在行われている経口免疫療法と組み合わせることでその効果を増強できる可能性も考えられます。
有効性、安全性、至適投与条件などクリアすべき課題は山積していますが、食種を問わず食物アレルギーに対する普遍性を持った治療法として今後の発展が期待されます。
【文献】
1)Feehley T, et al:Nat Med. 2019;25:448-53.
2)Abdel-Gadir A, et al:Nat Med. 2019;25:1164-74.
3)Stephen-Victor E, et al:Immunity. 2020;53:277-89.
楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[アレルギー]