No.5039 (2020年11月21日発行) P.64
大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
登録日: 2020-11-05
最終更新日: 2020-11-05
以前、本連載で、厚生労働省は、統合医療・補完代替療法を必ずしも一方的に規制や取り締まりの対象にしているわけではないことをとりあげた(No.5008、2020年04月18日号)。その背景に、どのような思惑や狙いがあるのであろうか。今回、自由民主党政務調査会が公表した資料1)に興味深い記載があったので紹介したい。
552項目にも及ぶ政策が示されているなかで「104 生活の質(QOL)を高める統合医療の推進」が掲げられている。ここでは、統合医療を下記の「医療モデル」と「社会モデル」とに分けて説明されている。
◎医療モデル:近代西洋医学に補完代替療法や伝統医学等を組み合わせてQOLを向上させる医療
◎社会モデル:健康長寿社会を目指すために、学際的な知識を総動員して健康の社会的格差を是正するもので、地域が主体となってお互いのQOLを高める手段
これまで本連載では統合医療を、ここでいう「医療モデル」として解説してきた。「社会モデル」については、正直なところ筆者自身、具体的なイメージを掴みきれていないが、健常者が補完代替療法を用いて健康の維持・増進に努めることを指しているものと考えられる。そして、統合医療を有効に活用することで、「高騰する医療費の適正化」「平均寿命と健康寿命の格差縮小」を目指すとしている。さらに、「統合医療推進基本法(仮称)」の制定を求め、政府一体の取り組みを進めていくと本項は結ばれている。
しかし、残念ながら、統合医療が医療費の削減や健康寿命の延伸に寄与することは、現時点では科学的に証明されていない。また統合医療・補完代替療法も健康被害がゼロというわけではない。玉石混交とされる統合医療の「玉」を慎重に見極めながら政策が進められていくことを期待したい。
【文献】
1)自由民主党政務調査会:総合政策集2019 J-ファイル(2019年6月17日)
[https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/pamphlet/20190618_j-file_pamphlet.pdf]
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑪]