No.5043 (2020年12月19日発行) P.56
小田倉弘典 (土橋内科医院院長)
登録日: 2020-12-03
最終更新日: 2020-12-03
連載も今回が最終回なので、当院で行っているケアカンファランスについての紹介とともに、診療所外来の現在、未来について考察したい。
当院では、2017年から月1回、主に多疾患並存状態の高齢者とそのご家族、およびケアマネジャー、訪問看護師、介護スタッフ、当院スタッフ等が参加し、1ケース1時間程度のカンファランスを行ってきた。コロナ禍で一度中断したが、最近感染症対策を施しながら再開している。
患者には、「困ったこと」ではなくて、最近「良かったこと」「面白かったこと」を自由に語ってもらっている。そうした場では生き生きと語る患者の姿を見ることができる。デイサービスになぜ行きたくないのか、日頃こんなことに心がけている、といった家族でも知らなかったような本人の思いが明らかになることもある。普段診察室では見られなかった患者の意外な側面が見事に明らかになるのである。みな一様に笑顔でお帰りになり、ご家族の満足度はかなり高い。福祉介護サービスの受診勧奨につながることもある。
コンセプトは、その本来の原則には遠く及ばないとはいえ、オープンダイアローグを基本としている。すなわち対話それ自体を目的とし、結論を急がず意見の相違があったとしても早急に解決を目指さない、患者、家族、つながりのある人の参加を基本とする、一般的なプログラムは使わず柔軟に対応する、などである。
今日、診療所外来の多数を占める上記高齢者の診療は、従来のように数分間診療で問題点を抽出し、その場で一応の解決(多くは薬剤処方)を目指すといった形式では、十分対応できなくなってきているように思われる。多くの場合解決策がなく、多職種の関わりが必要で、患者の弱みでなく強みを引き出すことが求められる。患者─医師2者間の閉鎖的な空間から、多くの参加者や多様な空間からなる「依るべき場」があることが大切なのである。
それは効率性や経済性重視の視点から逸脱したアプローチであり、当院のカンファが最適解とは当然言えないが、今後の高齢化社会での診療のあり方を根本から見つめ直すタイミングが今であるということを、このカンファを通じて痛感するのである。
小田倉弘典(土橋内科医院院長)[多疾患併存][診療所外来][オープンダイアローグ]