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【識者の眼】「“健康な人と変わらない人生”には地域連携が必須」細井雅之

No.5048 (2021年01月23日発行) P.59

細井雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)

登録日: 2021-01-14

最終更新日: 2021-01-14

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2020年4月に日本糖尿病学会が発表した糖尿病治療の最終目標が、今までの「健康な人と変わらない日常生活の質QOLの維持、健康な人と変わらない寿命の確保」から「健康な人と変わらない人生」へ「バージョンアップ」した。

個人的には、「健康な人と変わらないQOL」というのも難しい治療目標と思っていた。ところが、新たに「健康な人と変わらない人生」という大きな目標が追加された。果たして達成可能な目標なのか?

病気には「疾患disease」と「病いillness」の2面がある1)。「疾患」は病気を医学生物学的に説明するものであり、HbA1cや血糖値という数値で示される。「病い」は個人が疾患を抱えてどう生きていくかという経験を指す。「糖尿病を有する人」は、糖尿病という「疾患」を患いながら、糖尿病という「病い」の経験を生きていくことになる1)。「疾患」を治療すること(医学)を我々は大学で学んできた。しかし、「どう生きるか」という人生を問う「病い」に関して(医療)は、我々は大学では学んでこなかった。医学と医療の両面から「糖尿病を有する人」を支えなければ「健康な人と変わらない人生」はあり得ない。この「病い」の部分を支えていくには地域医療機関との連携が必須だと考えている。「かかりつけ医」の先生との連携なしでは「どう生きるかという人生の問い」に答えられないと思う。

一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会代表理事の小澤竹俊先生の著書に「苦しみのない人生はないが、幸せはすぐ隣にある」2)がある。糖尿病を有する人の人生も様々な苦しみがある。糖尿病に固有なものや、健康な人にもある苦しみがある。いかに「すぐ隣にある幸せ」に気づいてもらえるか否かが大きな違いになると思っている。糖尿病治療の最終目標を、たとえ苦しみがあっても「幸せを感じてもらえる人生」と考えてはいけないかと、個人的に考えている。

【文献】

1)アーサー・クラインマン:病いの語り─慢性の病いをめぐる臨床人類学. 江口重幸, 他(訳), 誠信書房, 1996.

2)小澤竹俊:苦しみのない人生はないが、幸せはすぐ隣にある. 幻冬舎, 2020.

細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)[糖尿病学会の治療目標][病診連携⑨]

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