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【識者の眼】「日本の臨床開発力の復興に向けて、医師は評論家からclinician trialistへのステップアップを!」藤原康弘

No.5059 (2021年04月10日発行) P.58

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2021-03-12

最終更新日: 2021-03-12

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新型コロナウイルス禍の中、国内での報道や医学雑誌・ブログ等で目立つのは、海外で実施された臨床試験の評論である。

私が母校の大学病院に総合診療部の助手として赴任した1992年は、エビデンスベーストメディスン(EBM)の黎明期だった。同年11月4日号のJAMA誌に掲載されたMcMaster大の医師たちを中心とするEBM Working Groupによる“Evidence-Based Medicine”と題された論説に心を奪われ、翌年11月3日号から始まった同誌のUser’s Guide to the Medical Literature で学んだ“critical appraisal”(批判的吟味)を参考に研修医や医学生たちの教育に励んだ。

その後、1994年に国際対がん連合のグラントを得てシカゴ大病院で研修を開始した際に経験した衝撃は、今も鮮明に思い出される。ラウンド後のランチミーティングで生物統計家が、最新のNEJM誌を始めとする有名雑誌の臨床試験論文の統計部分に焦点を当てた批判的吟味を行っていたのだ。フェローたちに大人気だったが、私は診療チームの一員に生物統計家がいることが米国の臨床開発力を支えているのだと実感していた。

さらに、米国臨床腫瘍学会の国際委員会の委員をしていた2003〜4年にも大きな衝撃を受けた。学会では患者団体からの意見を聞く機会を設けていたので、ある時、日本で社会的注目を当時集めていた抗がん剤のドラッグ・ラグ問題についての感想やアドバイスを聞いた。すると、日本は米国の患者が参加した臨床試験の結果を使うだけで自分たちは汗をかいてないじゃないか、と叱責されたのだ(自分の拙い英語力では、そう感じた)。この衝撃以降、他人がやった臨床試験の結果の評論や作られた診療ガイドラインに従う医療者から、抗がん剤開発の実践者(clinician trialist)たろうと心に期して仕事をしている。

本年3月4日号のJAMA誌に、南米コロンビアで実施された軽症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するイベルメクチンとプラセボの二重盲検ランダム化比較試験のネガティブな結果が掲載された。昨年7〜12月までに患者登録がされた試験である。コロナ禍のこの一年、NEJM、Lancet等の世界の診療を先導する医学雑誌でCOVID-19関係の我が国の臨床試験論文が掲載されたものはない。皆、評論家からclinician trialistへと成長を図る良い時期ではないだろうか、今は。

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[薬事]

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