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【識者の眼】「『ザイタク医療』③〜生活を支える医療〜」田中章太郎

No.5060 (2021年04月17日発行) P.65

田中章太郎 (たなかホームケアクリニック院長)

登録日: 2021-04-01

最終更新日: 2021-04-01

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「おばあちゃんこけて…トイレには行けたんやけど…」「トイレで立ち上がれんくなってるんや、どないしょ?」「大和撫子の母の下の世話、ワシがしようとしたら泣かれてなあ…」。こんな電話が鳴る時、タナカは、最期までちゃんと家で暮らせる、と確信する。そこに生活が見えてくると、やっと『ザイタク』がうまくいく。患者さんの生活を周りの人と共に支えようとする時、決まって祖母の在宅介護のことを思い出す。

同級生の死を経験し、研修医生活に疲れ、目指すべき道を見失いかけていた頃、自身のリハビリ目的で大学院に行き、医者人生を見直そうとしていた。大学病院を離れた春頃、祖母の肺癌が再燃し、脳転移や肺転移を認め、放射線治療等が行われた。その治療効果も乏しくなった夏頃、祖母のたっての希望もあり、在宅介護生活が始まる。大学院の教授に「介護してきなさい、在宅看取りまで」と言われ、祖母宅に泊まり込み、今で言う『ザイタク』介護が始まった。

トイレへの歩行もままならず、壁伝いにフラフラしながら歩く、必死の毎日だ。ポータブルトイレなんて使いたくない。使用せずにいると、ある日、大失敗をしてしまう。そうなると、オムツが始まる。当時胸部外科の研修を終えた医師3年目のタナカは、人間の尊厳を保つ上で、最も大切な排泄という部分さえも、何も学んでこなかったことを突きつけられる。祖母との介護生活で、最初に取り組まなければならなかったのが、『排泄』だった。オムツになり、清潔を保つために陰部洗浄等をしなければいけないのだが、予想通り、全く出来ない。尊厳を保たなければいけないことなんかそっちのけだ。孫にさせたくない祖母の気持ちが嫌というほどわかりながらも、手際よく、全く出来ない。一体何を学んできたのだろう? そして、何を学ばなければいけなかったのだろう? 祖母との在宅介護の経験は、今もなお、生活を支える医者としての一番の財産だ。

ザイタク医療に取り組むと、実際には排泄に関することだけでなく、生活全般も知っていなければならない。もちろん、ちゃんと緩和医療ができることも重要ではあるのだが。このコロナ禍において、『ザイタク』に挑戦しようという患者さんが増えている様に感じる。その際、共に作り上げる医療である『ザイタク医療』で、患者さんの生活を支えることに挑戦して欲しい。『生活を支える医療』を市民は今こそ切望している様に思う。

田中章太郎(たなかホームケアクリニック院長)[在宅医療]

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