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【識者の眼】「感染症病床の正規軍と予備役」神野正博

No.5069 (2021年06月19日発行) P.62

神野正博 (社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

登録日: 2021-05-31

最終更新日: 2021-05-31

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「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」が今通常国会で、5月21日に可決成立し、28日に公布された。

医師の働き方改革、各医療関係職種の専門性の活用(医療関係職種の業務範囲の見直し、医師養成課程の見直し)、そして今後の医療提供体制改革として、新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の確保に関する事項の医療計画への位置付け、地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組の支援、外来医療の機能の明確化・連携などが謳われている重要法案だ。どこも突っ込みどころが満載である。

特に、医療計画の記載事項として、これまでの5疾病5事業と在宅医療であったものに6事業目として新興・再興感染症対策が加わることとなった。すなわち、各都道府県が策定する2024年からの第8次医療計画で医療提供体制の根幹として位置づけられる。

新型コロナウイルス感染症の第3波、第4波における病床のひっ迫による医療崩壊の危機を踏まえて、持続可能な感染症対策、医療提供体制を官民で模索するべき時であろう。振り返れば、そもそもパンデミックを想定していなかったと思わざるを得ない感染症法による感染症指定医療機関のわずかばかりの病床で、今回のコロナ禍は対応できなかった。一方で、普段の病床として使うことなく、いざという時に、素早く患者を隔離するこの病床維持には多額の繰入金も投入せねばならない。

こういった、いざという時の病床と人員を大量に備えておくことは、医療の効率性から許されないだろう。この感染症専用病床は、いわば正規軍だ。戦時でない時にいかに軍を整備するか、まさに安全保障の世界だ。最大限の戦闘への軍備は、大国たりとて不可能だろう。そこで、予備役の制度がある。日本では予備自衛官、米国では州兵だ。平時は別の仕事に就き、待機手当を裏付けにしながら訓練のみをいわばパートタイマーとして実施し、いざという時に正規軍に合流する。

感染症専用病床と、いざという時に備え訓練し転換する予備役病床の確保。こういった考え方を次のパンデミックに備えるために議論し、確立しておくことこそが「医療計画」なのではなかろうか。

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)[医療計画]

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