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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『ワクチン敗戦国報道をめぐる違和感』」鈴木貞夫

No.5070 (2021年06月26日発行) P.56

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-06-02

最終更新日: 2021-06-02

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ワクチンの効果が現れ始めるまでは、日本の新型コロナ感染者数は欧米に比べて桁違いに少なかったが、接種が先行した国では著しく新規感染者数が減っている。「日本のワクチン接種は絶望的に後れを取っており、ワクチン敗戦国と言ってもいい」という論調の記事が後を絶たない。

この手の記事にすっぽりと抜け落ちている観点が3つある。ある時点でのワクチンの総量は一定であること、日本のコロナ感染者数は流行国に比べて桁違いに少ないこと、日本の人口が多いことである。

ワクチンは、流行に応じて使われるべきだ。きれいごとを承知で言えば、国際協同的に使うもので、勝った、負けたの話ではない。ワクチン開発に貢献した国ならともかく、日本はこのワクチンについては単なる「買い手」なのだ(そこは大いなる反省点であろう)。

欧米を中心に接種が本格化し始めた2月時点で、人口あたり感染者数の最上位の小国に、チェコ、モンテネグロ、イスラエル、バーレーン、スロベニア、セルビア、スウェーデン、アラブ首長国連邦、ポルトガル、ハンガリーなどがあるが、この10カ国の人口を合計しても日本人口の6割に満たないのだ。日本の接種率を高くすれば、これらの国々の接種率は当時の日本以下になる。こんなことをしようものなら、国際社会からどれだけの非難を浴びるかは想像に難くない。ちなみに2月時点での人口100万人あたり新規感染者数は、チェコ843に対し日本は12であった1)

イスラエルがワクチンで成果をあげたのは確かであるが、イスラエルは2月時点で最流行国のひとつであった(人口100万対新規感染者数:527)し、人口は大阪府より少ない。あるべき国際配分から考えて、しかるべきところにワクチンが使われているという印象しかない。

WHOテドロス事務局長は、世界のワクチンの75%が10カ国に集中している点を挙げ、「恥ずべき不公平だ」と批判し、加盟国にワクチン分配の国際的枠組みCOVAXへの提供を求めている。そうは言うものの、新型コロナはアジア、アフリカよりむしろ欧米で流行しており、ワクチン分配に不均衡はあるが、恥ずべき状態というほど悪くもないと考える。

日本については、流行国がワクチンの力で成し遂げたことを、ワクチンなしで同等以上にやってきたことをまず前向きに評価し、今後はワクチンの有効使用を第一に、スピード感をもって接種を進めることが重要である。個々の事務的な手続きはできる限り簡略化すべきだろう。

【文献】

1)世界の新型コロナ感染数数

  [https://github.com/owid/covid-19-data/tree/master/public/data

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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