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【識者の眼】「新しい時代に医科歯科連携を進め、国民の健康に貢献する」槻木恵一

No.5068 (2021年06月12日発行) P.67

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2021-06-03

最終更新日: 2021-06-03

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日本の歯科という名称は、米国のDentistryに由来していると言われている(denteはラテン語で歯を意味する)。これは明治の初期に、歯科医療を学ぶために米国に留学した人が多いことや、横浜に来日し歯科診療所を開業した米国人歯科医師に学んだ人たちの影響が大きい。医学が主にドイツを模範としていた時代に、歯学は米国を模範とし近代医療の構築を進めた。

日本で初めての歯科医師は、セント・ジョージ・エリオットの弟子である小幡英之助と言われている。エリオットは、横浜で開業していた米国人歯科医師である。小幡は、エリオットが上海に移住するのをきっかけに、独り立ちするために明治8年の第1回医術開業試験を受験している。試験科目は「歯科」という分野を受験し合格しており、恐らくこの時に初めて正式に「歯科」という用語が公的に使われたと思われる。

興味深いのは、江戸時代からある「口中医」に合わせた試験科目として「口中科」が存在したが、小幡はそれを嫌い、新たに「歯科」での受験を願い出て認められているところである。当時の歯科は、技術を重視する米国式歯科医療であり口中科とかなり異なる。文明開化の新しい時代作りに燃える気風を背景として、日本での「歯科」は、公的試験を契機に突如として登場した。

歯科医師は、戦後の高度経済成長期にはう歯の治療に明け暮れていた。まさに歯の治療を行う「Dentistry:歯の医者」としての役割を最も求められていた時代である。その役割は当然今後も変わらないが、近年の研究から口腔細菌が肺炎、糖尿病、認知症、自己免疫疾患、大腸癌などに影響することが示された。また口腔ケアは、ウイルス感染対策にも貢献する。

口腔と全身の関連にエビデンスの蓄積が見られ、全身の健康維持や増進に歯科の新たな役割が見え始めている。そしてこの新たな役割の完遂は、医科との連携がキーワードではないかと考えている。否応なしにニューノーマル時代となったが、明治の時代の気風を思い描き、時代を前に進めなければならない。

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[歯科]

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