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【識者の眼】「リスクをリスクとして認識できるか」川﨑 翔

No.5070 (2021年06月26日発行) P.63

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2021-06-04

最終更新日: 2021-06-04

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『ティアーズ・オブ・ザ・サン』(2003年、アントワーン・フークア監督)というブルース・ウィリスさん主演の映画をご存じでしょうか。内戦が続くアフリカ某国で活動する米国人医師を、米国軍特殊部隊が救出に向かうというストーリーです。特殊部隊出身の専門家が監修しており、役者の所作や戦闘シーンには迫力があります。

ただ、残念なのは、ブルース・ウィリスさん扮するウォーターズ大尉の自動小銃につけられているスコープが前後逆というシーンがあることです(映画ファンの間では意外と有名な逸話です)。当然、スコープが前後逆についていると狙うことができません。特殊部隊の兵士がスコープを付け間違えるはずはないので、やや興ざめするシーンになっています。もしかしたら、現場スタッフが、小道具である自動小銃を誤って落としたところ、スコープが外れてしまい、軽い気持ちで修復しようとして、前後逆に取り付けてしまったのかもしれません。

このエピソードは、「プロでないとリスクをリスクとして認識できない」という良い例だと思っています。

クリニックの経営においても、リスクをリスクとして認識して、対応することは極めて重要です。解雇後の紛争による精神的・金銭的負担、不動産契約における定期借家契約のデメリット、業者との契約書にまぎれこんだ「どんな損害が生じてもクリニック側が責任をとる」という不合理な免責規定、「他のクリニックもやっている」という甘言を弄して業務提携を持ち掛ける怪しげな会社、クレームの初期対応を誤ったためにトラブルが拡大したケース、カルテの記載ひとつで診療報酬の返還を求められる個別指導…と、リスクを挙げればきりがありません。一旦リスクが顕在化してしまうと、リカバーするために多大な労力とコストを払うことになってしまいます。

映画スタッフがスコープの前後を取り違えるくらいであれば、笑い話で済むかもしれません。しかし、クリニック運営において、リスク判断を誤ると経営のダメージに直結します。

ぜひ、「スコープを逆に取り付けてしまう」前に、違和感に気づいたら、リスク対応の専門家である弁護士に相談していただきたいと思います(余談ですが、他の映画やドラマでも、銃のスコープが前後逆についているケースは意外と多いです)。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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