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【識者の眼】「高齢者には可能な限り地域完結型医療を」野村幸世

No.5071 (2021年07月03日発行) P.62

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2021-06-24

最終更新日: 2021-06-24

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65歳以上の方への新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種が進みつつある。私が担当している大学病院の外科外来でさえ、患者さんからの話題はCOVID-19ワクチン接種の話ばかりだ。初回が終わったとか、私が受けてみて副反応はどうだったかとか、受けても大丈夫かとか、そんな話で持ちきりである。

マスコミの報道でもあるごとく、集団接種会場は高齢者に人気がない。私が拝見している外科外来の高齢者の患者さんたちも然りである。たとえ、自分のかかりつけ医でなくても、近くの開業医での接種を希望している。場合によっては小児科の開業医でもいい、と言う。

ところが、私が専門としている胃癌の手術などの動向と業界での方針を見てみると、どうも、この高齢者の希望とは一致していないように思う。ヘリコバクター・ピロリの除菌療法が進み、今後、日本人の胃癌は減少していくと思われる。そうした時に、胃癌の治療ができる医療施設を集約化していこうという考えが存在する。この方針は合理的ではあるが、私はどうも好きになれない。私は元から「囲い込み運動」的な考え方は好まない。それゆえ、自分がこの方針を好きになれないのだろうと思っていた。しかし今回、高齢者が集団接種を好まないことから、集約化が高齢者の希望に合っていないために、自分が集約化に賛成できずにいることに気づいた。

希少な疾患の治療を、ある程度集約化しなくてはならないことは理解できる。しかし、もっと患者さんの希望に沿うやり方はできないだろうか? 例えば、胃癌の手術ならそれを初対面の外科医にも十分に指導できる医師、またはチームを派遣するなどして、地域で完結できるような医療体制は組めないものだろうか。一度、集約化してしまった医療を、未経験の施設に展開することは大変に労力のいることであろう。しかし、今現在、その医療を展開している施設が各地にあるとしたら、集約化する前に各施設で維持する工夫などできないものだろうか。ぜひ、高齢者に対しては、可能な限り地域完結型の医療を考えていただきたい。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[集約化]

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