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【識者の眼】「東アジア伝統医学の国際化と標準化(3)─国際標準化機構(ISO/TC249)」並木隆雄

No.5081 (2021年09月11日発行) P.60

並木隆雄 (千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)

登録日: 2021-08-18

最終更新日: 2021-08-18

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今回は、国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)での標準化を紹介する。前回(No.5077)紹介した世界保健機関の国際標準は国ごとに任意使用であるのに対し、ISOの専門委員会(Technical Committee:TC)で作られた国際標準規格(International Standard:IS)は原則、各国の法律よりも強制力がある点が異なる。

さて、ISO/TC249(中医学)は、中国の申請により2009年に設立され、現在までに1年ごとに11回の会議を行っている。参加国は日・中・韓はもちろん、ベトナム、タイ、欧州各国(独、伊、オランダ、スペイン、ロシアなど)、オーストラリア、アラビア、ケニアなど多彩である。討議内容は、東アジア地域の伝統医学(中医学・韓医学・漢方医学)の国際的な流通促進を目的として、生薬や製剤(エキス製剤など)、鍼灸機器(鍼、モグサなど)、伝統医学の診断機器及びそれに関連する医療情報に関する国際規格を定めること。専門性が高いため、6分科会(WG):WG 1/2(薬系)WG 3/4(鍼灸)WG 4(診断機器) WG 5/JWG1(情報科学)に分かれて討議する。一つの規格が成立するまで2〜3年を要し大変な時間と労力を使う仕事である。日本からは、産業界(製薬会社や鍼灸の治療機器製造会社、診断機器関連会社)、行政(関連の国立の研究所や規制などを作る省庁)、学会/大学関係(医学、薬学、鍼灸の学者または臨床家)の方々が参加している。

ISは現在(2021年8月)、70(日本単独提案10)規格が作られ、その多くが中国、次いで韓国からの提案である。両国とも利権の確保を第一義に国からのバックアップを得て活動している。ISの具体例は以下である(下線は日本単独提案の国際規格:原文は英語の仮訳)

▶オタネニンジンの種苗(IS 17217:2014)▶天然物の製品加工のための全般要件(IS 19617:2018)滅菌済み単回使用皮内鍼(IS 18746:2016)▶灸機器の一般要件(IS 18666:2015)▶コンピューター舌画像解析システムPart3:カラーチャート(TR 20498-3:2020)日本漢方生薬の系統的用語(ISO/TR23021:2018)

上記のような強制力のある国際規格が続々と作られている。その対応策として中医学のみの標準化とされないようにすることや、各規格が日本の産業界や漢方医学の治療自体に影響がないように各WGのメンバーの努力で審査や内容の監視を常に厳しく行っているため、現時点では日本国内に影響は出ていないと考えている。しかし、中国では多くの人が携わっている一方、日本は慢性的な人材不足で、いつ破綻するかわからない状況が続いている。

次回は、その他の世界的な情勢や今後の展望を紹介したい。

並木隆雄(千葉大学医学部附属病院和漢診療科科長・診療教授)[漢方]

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