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【識者の眼】「集中治療後症候群(PICS)の解決は高齢化社会で喫緊の課題」井上茂亮

No.5089 (2021年11月06日発行) P.55

井上茂亮 (神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野)

登録日: 2021-10-13

最終更新日: 2021-10-13

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集中治療室(ICU)における補助循環・呼吸装置の技術革新やガイドラインによる診療レベルの向上と標準化、教育プログラムの充実により、この四半世紀で救急・集中治療医学は劇的な進化を遂げ、ICU死亡率や28日生存率などICU患者の短期的なアウトカムは飛躍的に改善した。しかし、重症患者の長期予後や生活の質はいまだ改善していない1)。集中治療後症候群(post-intensive care syndrome:PICS)とは、ICU在室中あるいはICU退室後、さらには退院後に生じる身体障害・認知機能・精神の障害で、ICU患者の長期予後のみならず患者家族の精神にも影響を及ぼす(図11)2)。わが国におけるICU入室6カ月後のPICS頻度は64%という報告もあり3)、さらなる少子高齢化を迎えるわが国において、解決すべき喫緊の課題の1つである。

PICSの3つの症状

PICSには3つの症状がある。まず第1に運動機能障害である。敗血症、多臓器不全、全身性炎症反応症候群、長期人工呼吸管理、不動化、高血糖、糖質コルチコイドの使用、筋弛緩薬の使用などがICU-AW(重症患者に発症した急性のびまん性の筋力低下のうち、重症病態以外に特別な原因が見当たらない症候群)発症の危険因子である。第2は、認知機能障害、第3はうつ病、不安、心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)などの精神障害である。また重症患者の家族も精神的なストレスを抱えて精神障害に至る場合がある。このような重症患者の家族の精神障害はPICS-Fと呼ばれている。

PICSの対策

まず、重症患者においてPICS・ICU-AWのリスク因子の評価を行う。リスク因子として、①患者の背景因子(年齢、併存疾患など)および重症度、②医療・ケア介入(血液浄化療法、気管挿管および人工呼吸管理、各種カテーテル、各種薬剤、各種血液製剤、体位変換、気道吸引、各種検査など)、③ICU環境要因(アラーム音、閉塞空間など)、④患者の精神的要因(不眠、ICU滞在による精神ストレス、自身の病状や社会的背景に対する不安)などがある。これらのリスク因子がなければ引き続きモニタリングを行う。またPICS予防策として、ABCDEFバンドルがある5)。ICU入室中からバンドル(束:全部やる)を組み、実行することがPICSの予防に重要である(図2)。特に早期リハビリテーションや他動的関節運動、神経電気筋刺激などがPICSの運動機能障害を予防する可能性がある。

【文献】

1)Needham DM, et al:Crit Care Med. 2012;40(2):502-9.

2)Inoue S, et al:Acute Med Surg. 2019;6(3):233-46.

3)Kawakami D, et al:Crit Care. 2021;25(1):69.

4)Mikkelsen ME, et al:Crit Care Med. 2020;48(11):1670-9.

5)Nakanishi N, et al:J Clin Med. 2021;10(17):3870.

井上茂亮(神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野)[集中治療][救急][敗血症の最新トピックス㉓]

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