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【識者の眼】「胃炎と胃潰瘍の違い」浅香正博

No.5093 (2021年12月04日発行) P.63

浅香正博 (北海道医療大学学長)

登録日: 2021-11-25

最終更新日: 2021-11-25

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現代のようなストレスの多い社会で生活していると、胃痛を感じることは決して稀ではない。病院を受診し内視鏡検査を受けた際、医師から告げられる可能性のある病気は胃炎が大半と思われるが、その他、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃癌などが考えられる。これらの病気は現代人を悩ましているだけでなく、これまで何百年、何千年にもわたって、我々の祖先が苦しんできた病気でもある。

胃はわれわれが食物を摂取したとき、最も早く消化に関わる臓器であり、食物を通すために中が空洞になっている。胃や十二指腸で消化された食物は、その後、小腸と大腸で、蛋白質、脂肪、炭水化物、ビタミンなどの栄養素や水分が吸収されていく。これら、食物の消化、吸収に関わっている中が空洞の臓器のことを消化管と呼んでいる。胃粘膜は外部からの直接の刺激を受けやすく、さらに塩酸という有害物質に常時さらされるので、他の消化管より直接障害を受けやすい。胃の病気の診断には、通常のX線写真やCT撮影などは不向きであり、バリウムや内視鏡を用いた検査が最も有効である。これは、胃が肺や肝臓と異なり、中が空になっている管のような臓器であるためで、他の臓器の検査に比べて患者の負担が大きい。胃壁は、内側から粘膜層、筋層、漿膜の3層で構成されている。これは、胃のみの特徴ではなく、十二指腸をはじめとする消化管一般にみられるものである。

胃炎と胃潰瘍の違いについては案外知られていない。胃の粘膜に炎症が生じると、胃の粘膜は多かれ少なかれ障害を受けるが、粘膜が深くえぐり取られ、筋層にまで達したものを潰瘍と呼んでおり、粘膜までの浅い変化しか生じなかったものを胃炎と呼んでいる。急性胃炎では、腹痛などの症状が胃潰瘍と同程度に出現するが、回復は早く、症状は数日で消失する。内視鏡で観察すると、胃炎の所見は数日から1週間ほどで、あとかたもなく消えてしまうことが多い。これに対して、胃潰瘍は自覚症状が長く続き、自然に潰瘍が治癒するのには2〜3カ月もかかる。潰瘍が治った後も、内視鏡で観察すると、跡が赤みを帯びており、正常粘膜とは明らかに区別できる。治ったからといって、この状況で薬を止めると、再発する危険性がきわめて高いことがわかっている。

胃炎と潰瘍では、このように患者に対する治療や指導が異なるため、違いをしっかり認識することがとても重要である。したがって、胃粘膜障害が疑われた場合、内視鏡検査による正確な診断がどうしても必要であることを理解していただきたい。

浅香正博(北海道医療大学学長)[消化管][内視鏡検査]

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