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【識者の眼】「大都市の医療は満ち足りているのか」竹村洋典

No.5093 (2021年12月04日発行) P.60

竹村洋典 (東京医科歯科大学教授)

登録日: 2021-11-26

最終更新日: 2021-11-26

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筆者は現在、東京にいる。数年前まで、三重大学の総合診療科にて医療過疎地、地方都市の地域医療に係る研究をし、それを基に地方で活躍できる総合診療医を育成していた。当時は大都市において医療に問題があるとは思ってもいなかった。

日本の人口は現在、減少の一途である。そして少子高齢化は予想以上の速度で進みつつある。高齢者の実人口は年々増えている。それも地域によってその増え方も様々で、大都市ではまだまだかなりの速度で増えている一方、増加が鈍化している地方都市や医療過疎地も少なくない。したがって、医療需要のピークとなる年も、医療過疎地や地方都市の多くではピークを過ぎているが、東京都、大阪府、神奈川県など大都市ではまだまだピークを迎えていない。東京都では2055年まで医療需要が増え続けるとも言われている。

一方、医療を支える医師を含める医療従事者を人口増加に合わせて急増はできないし、医療需要が低下傾向になったときに余らせてはならない。今、医師に猶予されている働き方改革もいつかは完全に順守しなくてはならない。高齢者の増加に応じて、延命治療より癒しをもたらすケアを提供できる医師を育成する必要もあろう。特に東京や大阪ではたびたび新型コロナウイルスが猛威を振るっているが、それに臨機応変に対応できる医師も必要と思われる。

医療費を含める社会保障関連費も、労働人口の減少による税収減少に転ずれば、現状を維持できないかもしれない。実際、新型コロナ禍で国は莫大な国債を発行するに至った。ポストコロナ時代で医療の費用対効果が重視され、地価の高い大都市の医療はますます問題が顕在化する可能性がある。そして大都市では日本のどの地域よりもその問題が長引く可能性がある。

この問題に対処する一つの方略として総合診療医の育成がある。それゆえ総合診療医のニーズは、今後、大都市でますます大きくなるに違いない。多分、医療過疎地で需要が顕著な包括的な医療を提供できる総合診療医よりも、専門診療科医師や多職種医療介護従事者と効率的に連携できる総合診療医が大都市には必要かもしれない。大都市に適した総合診療医の育成は急務といえる。

竹村洋典(東京医科歯科大学教授)[総合診療]

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