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【識者の眼】「航空機内で痙攣発作を起こして緊急着陸となり、救急搬送されたブラジル人」南谷かおり

No.5103 (2022年02月12日発行) P.65

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2022-01-12

最終更新日: 2022-01-12

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飛行中に痙攣発作にて意識を失った50代ブラジル人男性。旅客機ではなくカーゴ便で、関西国際空港に緊急着陸して当院に救急搬送となった。意識が戻った患者は簡単な英語を話せたが、検査で脳腫瘍がみつかり、説明はポルトガル語がよいだろうと筆者が呼ばれた。

それまで無症状だった患者にとって脳腫瘍は青天の霹靂であり、長距離の移動は難しいため日本で手術するしかないと宣告され、とても動揺していた。手術では脳死や、いわゆる植物状態になる可能性もあり、サンパウロ在住の兄が急遽来日することになった。兄は、弟がいきなり地球の裏の市民病院で開頭手術をすることになり母国の某病院に相談したところ、奇遇にも脳外科医のN氏が大阪に留学経験があり当院の執刀医を知っていて、太鼓判を押してくれた。

点滴にて数日で脳浮腫は軽減し、患者は状況をすべて母語で聞き同意書に署名した。画像では巨大な脳腫瘍が正中偏移を引き起こして脳幹を圧迫する勢いで呼吸停止もありえたのに、勤務中に倒れ当院に搬送されたのは運が良かったとしか言いようがない。言葉の問題もあり、他では適切に対処できなかった可能性だってある。もしくは、前夜にアンカレッジの一人部屋で痙攣して嘔吐物で窒息死していたかもしれない。腫瘍は良性髄膜腫で、脳外科チームが威信を背負い12時間かけて入念に全摘し、患者は翌日には歩いていた。

数年経って患者は当院を訪れるために来日した。現場を見て当時のうろ覚えだった記憶がよみがえり、感極まり涙ぐんでいた。手術した主治医とも再会し、何より後遺症もなく過ごせていることにとても感謝していた。

さらに数年後、サンパウロの某脳外科医から日本で新たに認可されたALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療に関して大阪大学に問い合わせがあり、当時担当者だった筆者が偶然サンパウロに滞在していたので直接会うことになった。話してみると、不思議な偶然が次々と浮かび上がってきた。何とこの医師が実はN氏であり、また彼の親友の元妻は他州医学部卒で私の同級生であり(元夫の話は彼女から同窓会で聞いていた)、さらに私の大学時代の親しい日系人の友達(他州の非医療関係者)とも知り合いという、通常ならつながりえない接点がいくつも判明した。その後は筆者を介してN氏が勤めるサンパウロの日系病院と大阪大学や九州大学との交流が始まり、現在も続いている。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療]

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