No.5099 (2022年01月15日発行) P.67
槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)
登録日: 2022-01-13
最終更新日: 2022-01-13
1995年1月17日5時46分52秒は、阪神・淡路大震災の発災日時である。この震災を私が初めて知ったのは、6時のNHKのニュースであった。当時の首相もこの6時のニュースで事態を知ったというのは驚きである。その日は羽田から福岡に行く予定で、10時くらいに神戸の上空を通過中に流れた機内アナウンスは、今でも忘れられない。大変なことが起こっているとは思ったが6434人の犠牲者を出すほどの大災害とは想像もしていなかった。この時、日本はまだまだ災害に対して準備が十分と言える状態ではなく、現場での混乱が続くことになる。
しかし、阪神・淡路大震災において歯科がどのように動いていたかの記録を見ると、発災直後から歯科医師会を中心に対応が始まっている。このことに敬意を表したい。また、倒壊による外傷が多く、発災直後は病院歯科が、外科との連携により顎顔面外傷への対応に追われていた。歯科は、身元確認にも貢献していた。さらに、早朝での発災であったことから「入れ歯」を紛失している被災者が多いことが特徴であり、即時義歯のニーズが高いだけでなく、歯・口腔疾患の重篤化など歯科的問題が生じた。そのニーズの把握は、避難者が20万人という中で、大阪歯科大学のチームが行った。6500人の調査から2%程度の需要があることが示され、非常に的確に歯科医療の提供に貢献していた。
阪神・淡路大震災当時は、口腔ケアという言葉はまだ十分浸透していない時期であるが、口腔清掃の積極的な指導も行われている。犠牲者6434人のうち、震災関連死は900人以上で、この震災関連死で最も多いのが誤嚥性肺炎であり、救うことができた命であると言われている。誤嚥性肺炎予防に口腔ケアが重要であり、現在では災害時の歯科医療で口腔ケアが特に重要な位置づけになっているが、これは阪神・淡路大震災の経験からである。
災害と医療については、医学部では主に救急医学で、看護学部では災害看護学において学ぶことができる。しかし、歯学部では災害歯科を主として担当する科目がなく、学会も存在していないため、課題共有の「継続性=忘れない」ことに懸念がある。
さらに、これから大きな災害が予想されており、救える命を救うことに貢献をするための体制強化が必要であるが、時が過ぎると歯科医療の意義の重要性は、忘れられがちである。多職種での連携に基づく様々な災害医療チームが編成されているが、歯科医療関係者の積極的な参加にぜひご理解を頂きたい。
槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[災害医療][歯科]