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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『4月から始まるHPVワクチンの積極勧奨』」鈴木貞夫

No.5113 (2022年04月23日発行) P.58

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2022-04-05

最終更新日: 2022-04-05

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毎年3000人近くの女性が死亡する子宮頸がんの予防に向けたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の積極勧奨が、4月から始まる。このワクチンは9年前、定期接種に組み入れられたが、その直後から接種後症状が相次ぎ、国が積極勧奨を一時中止したものである。「一時」に9年の時間を費やした是非については今後の検証が必要だが、積極勧奨は喜ばしい。前回の混乱を教訓に、いま何が必要なのかを考える。

ワクチンの実施にあたり、その安全性と有効性は必須で、ランダム化割付臨床試験(RCT)により、市販前に検証される。積極勧奨の一時中止は異例ではあったが、緊急措置としては適切だったと考える。今回の積極勧奨再開にあたり、「安全性に特段の懸念が認められない」、「ワクチンの有効性がリスクを大きく上回る」ことが理由となっている。内外の研究結果から妥当な判断だと思う。

ワクチンのメリットとリスクの両面をきちんと伝えることは重要であり、エビデンスと正しい論理が前提である。NHK「時論公論」で、この趣旨の番組が放映された1)。全体的には丁寧につくられていたが、論理の誤りや疑問点があった。重要なことなので解説する。

番組内で、メリットとして「1万人が接種した場合、接種しなければ子宮頸がんになっていた約70人ががんにならずに済む」とされている一方で、リスクとして「1万人のうち約6人は重篤な症状と判断されている」という数値が挙げられているが、メリット側の70人は「接種、未接種の差分」であるのに対し、リスク側の7人は「接種者の人数」である。ここは、差分どうしを比較すべきで、様々な研究から、リスク側の差分はゼロが想定されている。

疑問点は「これまで接種者が大幅に減ったことで、副反応に対応した経験のある医師が少ない」という記述である。これも、接種と結びついた症状が減っていることは事実でも、症状そのものが減っているかどうかはわからない。もし、症状そのものが減っているなら、研究として検証すべきであろう。また「副反応」という用語も、因果関係が前提になっており、適切ではない。

多くの人が漠然と「症状に対する因果関係はある」と考えており、そのことに無自覚な報道が目につく。前回は、個々の事例の接種後症状が因果関係前提で報道され、接種率急落につながった。ワクチン接種は個人の意思決定によるものだが、その基礎となる情報は正確で偏りのないものが求められる。

【文献】

1)NHK解説委員室,解説アーカイブスこれまでの解説記事,「子宮頸がんワクチン"積極勧奨"〜1人1人が納得して接種を」(時論公論).

   https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/462964.html

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[HPVワクチン]

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