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【識者の眼】「身寄りのない人を看取る」西 智弘

No.5115 (2022年05月07日発行) P.62

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2022-04-07

最終更新日: 2022-04-07

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みなさんは、「身寄りがない人」を看取った経験はあるだろうか。

内閣府の「高齢社会白書(令和3年版)」を見ると、65歳以上で単身独居の世帯は1980年には約10%(88万人)に過ぎなかったのが、2019年には30%弱と大きく増加している。実数としても、2015年には592万人まで増加しており、今後の推計で2040年には896万人へ増えていくことが予想されている。

このような状況の中、「死亡時に死亡届を出せる人がいない」例が、ますます問題となってきている。死亡届を出せるのは、①親族、②親族以外の同居者、③家主、家屋管理人、④地主、土地管理人、⑤後見人、保佐人、補助人、任意後見人、任意後見受任者、⑥公設所の長、であるが、定期的に交流がある①や②、または⑤がいない場合には、その手続きが問題となる場合が多い。

たとえば③④は「届け出義務者」であるため、天涯孤独の方がアパートや高齢者施設で亡くなった場合、その大家さんや施設長が届け出の責を負うことになるが、このことを知らずに拒否されトラブルになるケースが少なくない。訪問診療などで、死亡後の取り決めをしておこうとした場合に「なぜ私がそんなことをしなければならないのですか」と医療者側が問い詰められるということだ。

また⑥の「公設所の長」は、公立病院院長が当てはまるので、同じく天涯孤独の方が病院で亡くなった場合は病院長名で死亡届を出せるのだが、その手続きは実は煩雑で役所で受理されるのに数日を要する場合があり、その間の死体安置にかかる費用は市民から集めた税金で補われるのだから、みだりに利用することはできない。

もっと大変な事例は、「持ち家で独居、誰にも後見人を依頼していない状態で自宅内で急死」というパターン。この場合、死亡届を出せる義務者も資格者も不在という状況となり、手続きはより難しくなる。

理想的には、生前からきちんと自らの行く末を考え、後見人を契約しておくのが良いのだが、契約金もそれほど安くはなく、「身寄りも無く、お金も無い」状況では八方ふさがりとなってしまう。社会状況に合わせて、制度も柔軟に変わっていってほしいと願うばかりだ。

死亡後のことなど、医療者にとっては関係ない、と考える方も多いかもしれない。しかし、これだけ社会の状況が変化し、またAdvance Care Planningが勧められ「患者本人が自分らしく生き、そして死後にも迷惑をかけたくない」となる方もいるであろう中で、私たちもこのような知識をつけておく必要があるのではないだろうか。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[死亡届]

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