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【識者の眼】「世界人口白書2022から見る日本での『意図しない妊娠』」重見大介

No.5115 (2022年05月07日発行) P.60

重見大介 (株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)

登録日: 2022-04-15

最終更新日: 2022-04-15

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国連人口基金(UNFPA)が2022年3月30日に公開した「世界人口白書2022」は、そのテーマを「見過ごされてきた危機『意図しない妊娠』」(原題:Seeing the Unseen:The case for action in the neglected crisis of unintended pregnancy)とした1)。これによれば、世界中の約半数の妊娠が意図しないものであり、妊娠するかどうかという重大なリプロダクティブ・チョイスの自由は、関係する女性や少女にとっては皆無であると述べられている。同時に、意図しない妊娠の60%以上が人工妊娠中絶に至り、全中絶のおよそ45%が安全でないため、5〜13%の妊産婦死亡を引き起こしていることにも触れられている。世界全体で見れば間違いなく大きな社会課題であるこの「意図しない妊娠」は、日本においてどのような状況で、どのように捉えられているのだろうか。

日本における「意図しない妊娠」の実数に関する正確なデータはないが、2012年の研究(2施設を対象とした前向きコホート研究)では780件の妊娠のうち「意図しない妊娠」は約29%(このうち望まない妊娠が41%)であり、25歳未満の女性に限ると42%だったことが報告されている2)。また、厚生労働省の統計(2020年)によれば、年間に14万5340件、およそ1カ月に1万2111件(1日に約400件)の人工妊娠中絶が行われている。中絶件数は年々減少傾向にはあるが、その数は未だ少なくない。日本において「意図しない妊娠」のうち中絶に至っている正確な割合は不明であるし、これらが妊産婦死亡の10%前後を占めることはないが、世界保健機関が示す「安全な中絶法」が普及していないという現状を含め、決して「遠い海外だけでの問題」ではないだろう。しかし、日本ではこの社会課題についてまだ広く関心を持たれていないのではないか、と感じることは多い。

世界人口白書2022では、女性と少女の最も基本的な権利(リプロダクティブ・チョイス)が平時でも戦争の最中でも後回しにされていることに警鐘を鳴らしており、多様で質の高い避妊手段へのアクセス向上や、質の高いセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ケアと情報の大幅な普及が必要であると述べられている。 本白書を一般女性、医療従事者、政策決定者などが参考にし、知識と課題意識を共有することで、日本でもこの大きな社会課題に対して多角的なアプローチがなされることが望まれる。包括的性教育の拡充・普及や、適切な知識を得てもらうための情報提供など、私自身も産婦人科・公衆衛生の視点からできることを続けていきたい。

【文献】

1)国連人口基金:世界人口白書2022 “見過ごされてきた危機「意図しない妊娠」”.

2)Takahashi S, et al:Matern Child Health J. 2012;16(5):947-55.

重見大介(株式会社Kids Public、産婦人科オンライン代表)[リプロダクティブ・チョイス

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